第15話 その死は、事故ではない
第15話 その死は、事故ではない
宰相アーヴェル・グランディスは、書斎の椅子に深く腰を沈めた。
机の上には、埃をかぶった王国記録の束。
手が震える。
その中には、娘・エリナの死に関する調査報告書があった。
――「事故死」とされているが、複数の矛盾点あり。
深呼吸する。
今まで、目を背けてきた真実が、目の前で動き出す。
思い出す。
庭園で見せたあの微笑み。
小さな手に握ったブレスレット。
「お父様が正しいことをしているなら、私は、どんな未来でも耐えられます」
その約束を、私は守れなかった。
机の上の記録を一枚一枚、指でなぞる。
――毒の痕跡。
――不自然な転落。
――王女セシリアの関与を示唆する文書。
血が逆流するような思いだった。
(……娘を、奪ったのは、あの女か)
深い怒りと共に、胸の奥に重い痛みが広がる。
外では、都市の風が強く吹いていた。
まるで王国そのものが、告発しているかのように。
「――すべては、表向きの顔か」
声に出すと、言葉が震える。
裏の顔。
王女の妬み。
父親である私を疎ましく思い、娘の存在を排除した計画。
許せるはずがない。
アーヴェルは立ち上がり、窓の外を見た。
遠く、浮遊都市の中心部。
まだ未完成の都市。
だが、ここが私の未来を取り戻す舞台になる。
手に握った書類を強く握り締める。
――守るべき人たちを、二度と失わない。
娘の分まで、私は戦う。
その時、背後でドアが開いた。
「……宰相」
リリアの声。
浮遊都市の仲間が、静かに入ってくる。
「王国の残党が、依然として動いています」
解析EXの報告も同時に提示される。
【残党部隊:10人前後、武装・魔法併用】
【行動パターン:都市内潜伏、暗殺任務】
アーヴェルは、深く息をついた。
「……来るな」
だが、目の奥は揺れていない。
決意の炎が燃えていた。
「私も、戦う」
言葉を呟くと、書斎の机を蹴って立ち上がる。
手には、かつて娘が握ったブレスレット。
その感触が、力になる。
「王女の策略、
そして王国の闇――すべて暴く」
アーヴェルの声は、静かだが鋭い。
それは、単なる復讐ではない。
未来を取り戻す覚悟の声だった。
外では風が強く、浮遊都市の影を揺らす。
そして――
地下牢や都市の影で、王国の残党たちが息を潜める。
だが、誰も予想していなかった。
あの“無能貴族”――レオン・アルヴァレスが動く前に、宰相は覚醒していたことを。
拳を握る。
胸に誓う。
「――今度こそ、私は守る。
娘の未来も、民の未来も、すべてを」
解析EXが、静かに更新される。
【アーヴェル・グランディス】
・状態:覚醒
・役割:国家顧問候補
・未来干渉適性:極大
・信頼度:レオンに対して最大
夜空に浮かぶ都市の光が、遠く揺れる。
その光は、希望の証。
アーヴェルは、静かに微笑んだ。
「――娘よ、見ていてくれ」
風が、微かに答える。
まるで、娘の声のように。




