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追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


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第14話 王国が壊れた日 (元宰相アーヴェル・グランディスの独白)

第14話 王国が壊れた日 (元宰相アーヴェル・グランディスの独白)



 王国が壊れた日を、私は正確に覚えている。


 それは、戦争でも反乱でもなかった。

 剣も魔法も振るわれていない。


 ――ただ、一人の王が変わった日だ。


 


 あの日までは、確かに“王国”は存在していた。


 王は決して名君ではなかったが、愚王でもなかった。

 臣下の進言に耳を傾け、民の声を無視することもなかった。


 少なくとも、私はそう信じていた。


 


 異変は、些細なことから始まった。


 会議に現れない。

 決裁が遅れる。

 理由を問えば、曖昧な笑みで誤魔化す。


「……お疲れなのでしょう」


 そう、皆が言った。


 だが、私は違和感を覚えた。


 


 王の“目”が、変わったのだ。


 


 以前は、未来を見据える光があった。

 今は――疑念と焦燥、そして、何かに急かされているような焦り。


 まるで、誰かに囁かれているかのようだった。


 


 私は、何度も諫めた。


「陛下。ここは慎重に判断を」


「宰相、黙れ」


 初めて、そう言われた日のことを忘れない。


 冷たい声。

 突き放すような視線。


 


 そこから、転落は早かった。


 


 私の権限は次々と削がれ、

 会議には呼ばれなくなり、

 決定事項は、事後報告のみ。


 代わりに王の傍に現れたのは――


 王女セシリアだった。


 


 あの娘は、聡明だった。


 ……少なくとも、そう見えていた。


 


「お父様。宰相は古いのですわ」


 微笑みながら、そう言う。


「時代は変わっています。

 新しい力、新しい価値観が必要です」


 


 私は気づくべきだった。


 あの優雅な笑顔の裏に、

 どれほどの毒が潜んでいたかを。


 


 次第に、政務は歪んでいった。


 法は捻じ曲げられ、

 都合の悪い貴族は排除され、

 王女に取り入った者だけが出世する。


 


 私は、それでも諫め続けた。


 それが、宰相の役目だと信じていたからだ。


 


 ――だが。


 


「もう十分だ、アーヴェル」


 王は、私を見下ろして言った。


「お前は、王国の足を引っ張っている」


 


 その場にいた誰一人、反論しなかった。


 ……できなかったのだ。


 


 その夜。


 私は、娘に謝った。


 


「すまない」


 それだけで、声が詰まった。


 


 娘は、笑った。


「お父様が悪いことをしたわけじゃないでしょう?」


 優しく、穏やかに。


「私は、大丈夫です」


 


 あの時、私は――

 なぜ、抱きしめなかったのだろう。


 


 失脚は、公式に発表された。


 罪状は、横領と職権乱用。


 ――まったくの、虚偽だった。


 


 屋敷は没収され、

 私は投獄され、

 娘は、独り残された。


 


 数日後。


 知らせが届いた。


 


「……事故です」


 役人は、そう言った。


 階段から落ちた。

 運が悪かった。

 よくあることだ、と。


 


 遺体は、静かすぎた。


 まるで、眠っているようで。


 


 その場に、王女が現れた。


 黒衣を纏い、涙を浮かべて。


 


「可哀想に……」


 私の手を取り、そう言った。


「お父様も、お嘆きでしょう」


 


 ――その目が、忘れられない。


 哀れみでも、悲しみでもない。


 勝者の目だった。


 


 あの瞬間。


 私は理解した。


 


 王国は、もう終わっている。


 王も、王女も、

 民を導く資格など、どこにもない。


 


 牢に戻された私は、何も言わなかった。


 怒鳴りもしなかった。


 叫びもしなかった。


 


 心が、完全に折れていた。


 


「……すべて、無意味だ」


 未来を語る資格はない。

 国を案じる資格もない。


 


 そう思っていた。


 


 ――あの青年が、来るまでは。


 


 浮遊都市。

 新しい国。

 切り捨てない未来。


 


 愚かな夢だと、笑うべきなのだろう。


 


 だが。


 


(……なぜだ)


 


 あの若者の背中が、

 娘の言葉と、重なって見えた。


 


「お父様が、正しいことをしているなら」


 


 ――私は、大丈夫です。


 


 私は、まだ牢の中にいる。


 だが。


 


 心の奥で、

 小さな、小さな火が――


 消えずに残っていることを、

 私は、まだ認められずにいた。



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