第二章 国家創造編 第13話 地下牢の老人
第二章 国家創造編
第13話 地下牢の老人
瓦礫に塗れた王城の地下層――そこは未だ閉ざされ今や冷たい石と闇だけが支配していた。
湿った空気。
鉄格子の奥から漂う、かすかな腐臭。
「……ここにいるのか」
俺は足を止める。
鑑定EXが示す反応は、間違いない。
――元宰相、アーヴェル・グランディス。
王国を内側から支えていた男。
そして、すべてを失った老人。
「まだ生きていたとはな」
俺が声をかけると、
牢の奥で動く影が、ゆっくりと顔を上げた。
白髪交じりの髪。
痩せこけた頬。
だが、その目だけは――かつて国を導いた知性の光を、まだ失っていなかった。
「……誰だ」
しわがれた声。
「名乗る価値も、もうこの国にはあるまい」
「レオン・アルヴァレス」
そう告げると、
老人は一瞬だけ目を細めた。
「……ああ。あの“無能貴族”か」
自嘲気味な笑み。
「なるほど。国が滅びるわけだ」
敵意も、怒りもない。
ただ、完全な諦観。
それが、俺の胸に刺さった。
「迎えに来た」
俺は率直に言う。
「浮遊都市を建国した。
内政を任せられる人間が必要だ」
老人は、短く笑った。
「……冗談はよせ」
「冗談じゃない」
「なら尚更だ」
彼は壁に背を預け、天井を仰いだ。
「国など、所詮は人の欲で腐る。
私はそれを、誰よりも近くで見た」
沈黙。
やがて、低い声が続く。
「私は……王国の未来に、すべてを捧げた」
それは、告白だった。
「聡明で、温厚で、愚直だった。
部下にも民にも、恵まれていた」
「……だが、王が変わった」
ある日を境に。
まるで何かに取り憑かれたかのように。
忠告を嫌い、
正論を疎み、
傍若無人に振る舞うようになった。
「私は諫め続けた。
それが、間違いだったのだろうな」
次第に権限を奪われ、
王女からも疎まれ、
政務は滞り始めた。
「そして……娘だ」
その言葉で、空気が変わる。
「私には、一人娘がいた」
王女と同い年。
聡明で、優しく、
決して目立ちはしないが、誰からも好かれる子だった。
「私を、誇りだと言ってくれた」
声が、かすかに震える。
「……失脚が決まった日」
一家は没落し、
屋敷は没収され、
支援者は消えた。
そして――
「娘は、“事故”で死んだ」
淡々とした口調。
だが、その奥に沈む感情は、計り知れない。
「王女が、涙ながらに弔辞を述べてな。
……優しい言葉を、かけてくれたよ」
老人は、乾いた笑いを漏らす。
「見事な演技だった」
俺は、黙って聞いていた。
鑑定EXが、記録の歪みを示している。
事故としては、あまりにも不自然な点。
だが――
ここで踏み込むべきではない。
「……もういい」
老人が、低く言った。
「過去を掘り返すな。
私は、娘を守れなかった」
鉄格子に視線を落とす。
「そんな男に、未来を語る資格はない」
それが、彼の結論だった。
「それでもだ」
俺は、一歩前に出る。
「未来は、放っておいても来る」
老人が、わずかに顔を上げる。
「だが、誰が舵を取るかで、形は変わる」
俺は言った。
「俺は、国を作る。
今度は――切り捨てない国だ」
「……甘いな」
「知ってる」
即答すると、老人は少しだけ驚いた顔をした。
「だから、あんたが必要だ」
沈黙。
長い、長い沈黙。
やがて、老人は目を閉じた。
「……帰れ」
「断る」
「私は動かない」
「それでも、また来る」
俺は背を向ける。
「答えは急がない。
だが――あんたの知恵は、まだ死んでいない」
歩き出す直前、
背後から、かすかな声が聞こえた。
「……若者」
「なんだ?」
「……娘の話を、信じてくれたか」
俺は、振り返らずに答えた。
「事故だとは、思っていない」
その一言で。
地下牢に、嗚咽が響いた。
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