第1話 婚約破棄?――ああ、そういうイベントか
「レオン・アルヴァレス。貴様との婚約を、ここに破棄する!」
その宣告は、祝祭の音楽を無慈悲に切り裂いた。
王立魔法学園の大広間。
卒業式と舞踏会を兼ねたこの場には、王族、貴族、教師、在校生――王国の中枢が揃っている。
壇上から俺を見下ろすのは、王女セシリア・ルミナス。
「理由は明白ですわ。三年間、魔法適性なし。
貴族としても、王家の婚約者としても……あなたは無能です」
ざわり、と空気が揺れた。
無能。
出来損ない。
王家の恥。
誰かが笑い、誰かが視線を逸らす。
そのすべてが、俺の胸に突き刺さる。
――慣れている。
俺はこの三年間、ずっとそう呼ばれてきた。
魔法学園に通いながら、魔法を一切使えない貴族。
努力しても結果は出ず、評価は常に最底辺。
王女の婚約者という立場だけが、かろうじて俺をこの場に繋ぎ止めていた。
そして今、その最後の拠り所すら切り捨てられたわけだ。
「代わりに、わたくしは真に相応しい方を選びます」
セシリアが視線を向ける。
「炎属性上級魔法を操り、剣術はAランク。
王国の未来を担う英雄候補――ガイル・フォルテス様ですわ!」
赤髪の青年が一歩前へ出る。
自信に満ちた笑み。会場を包む称賛の拍手。
……なるほど。
(最初から、決まっていたわけか)
その瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。
ずっと感じていた違和感。
なぜ努力しても、魔法だけが発動しなかったのか。
なぜこの世界が、どこか出来の悪い舞台装置のように見えていたのか。
(――ああ)
理解してしまった。
(これは、「イベント」だ)
同時に、頭の奥で何かが軋む。
忘れていたはずの記憶が、扉の向こう側で蠢いている。
それと同時に。
胸の内に、ぞわりとした感覚が広がった。
――長い間、縛られていた何かが、
今まさに外れようとしている。
「……何か言い残すことは?」
勝者の余裕を滲ませて、セシリアが言った。
俺は一歩、前に出る。
不思議と、心は静かだった。
怒りも、悲しみも――妙に現実味がない。
「婚約破棄、受け入れるよ」
会場がざわめく。
「ただし」
その瞬間。
足元の空気が、震えた。
床の奥。
大広間全体。
世界そのものが、俺を中心に“反応”し始めている。
視界の端で、何かが表示されかけた。
(……やっぱり、そうか)
この婚約破棄は偶然じゃない。
これは、引き金だ。
俺は、ゆっくりと指を鳴らした。
本作は
『追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜』
の連載番(続編)となります。
完結まで毎日19時更新予定ですので、ぜひお付き合いください。
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