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04


「ニック、悪いニュースだ」


 東南の塔で警備を担当していたニックの元へマックスがやって来て言った。


「魔王を討伐してファントムを手に入れたパーティが全滅した」


「全滅?魔王を倒したほどのパーティが?」


「ああ」


 マックスは息を飲んだ。


「勇者ビクターのパーティだ。おそらく現在では最高の力を持っているに違いない。そんな彼らの死体が発見された」


 ビクターのパーティと言えば、これまでも数々の実績を挙げてきたパーティだ。誰もが魔王討伐に向かう中、実際に討伐するのは彼らだろうとの予想も多くあった。その予想は当たったようだが、


「なぜ?魔王討伐で傷を負っていたのですか?」


「いや、そんな訳はない。彼らのパーティの僧侶は次世代の教皇と言われる逸材だ。彼がその時点で生きていたとしたら、全員を回復させるのは容易い。蘇生すらも可能だ。だが、その暇すら与えられなかったと言う事だろう」


 マックスは早口で言う。ニックは考えを巡らせると、


「ではファントムは」


「ああ、見つからなかった」


 となると、思い当たる犯人は一人。


「あいつ——レディオジャンパーですか?」


 正式な名前が分からないため、王都警備兵の中ではそう呼ばれている。


「おそらくな。確認された死体の状況を見ても、魔物の類の仕業じゃないそうだ。精鋭四人が何の抵抗も出来ずに一方的にやられたらしい」


「場所は?彼らがやられたのはどこですか?」


「最後の魔王の住処であるウヨロ連山の麓だ。険しい場所は過ぎていて、あと一日もあれば王国にたどり着いた頃だ。辿り着いてさえいれば、彼らは英雄として迎えられただろうに」


 マックスは苦い顔をする。


「第二分隊は現場に向かっている。まだレディオジャンパーが近くにいるかもしれないからな。まあ期待薄だろうし、簡単に抑えられる相手ではないだろうが」


「そうですか」


 そう言いつつもニックの顔には不安が浮かんでいる。レディオジャンパーの狙いは分かっている。この王国にあるファントムだ。ならば、下手に動かない方がいいのではないか。


 考えていると、やおら周囲が騒がしくなる。周囲を見回っていた兵達が忙しく動き出す。


「おい、どうした」


 マックスが尋ねる。マックスに詰め寄られた若い兵は、


「今伝令があったのですが」


 目には焦りのいろが見える。


「東の門が破られてゴブリンが侵入したようです。その数およそ数千」




 東の門へ向かうと、いつもはのどかなその広場は緑色の小さな魔物に埋め尽くされていた。


 大人の半分程の大きさで体毛は無く、雑巾を絞ったような足に、枯れ枝のような手。その手にはぼろぼろの剣や棍棒を持っている。


 ある者は家屋を破壊し、ある者は人を襲う。家畜を嬉々として襲っている者もいれば、火を放っている者もいる。


「何だ・・・これは・・・」


 ニックは声を漏らす。こんなに多くの魔物に侵入された事などない。やはり結界が弱まっているせいか。丁度東の門は結界が綻んだ場所にある。


 対する王都警備兵は百人いるかどうか。時間と共に人数は増えるだろうが、それでもせいぜい二百くらいだろうか。それでこの数のゴブリンと渡り合えるだろうか。


 マックスは出鱈目に襲ってくるゴブリンを切り捨てる。一匹一匹ならさほど脅威ではないが、この数だ。きりがない。


 マックスは覚悟を決めてゴブリン集団の中心へ攻め入る。狙い違わずゴブリンを一匹ずつ片付けながら進む。


 ニックもマックスに続く。


 ふと見ると、子供を抱き抱えてうずくまっている母親を見つける。その親子をゴブリン達が狙う。


 ニックは急いで駆けつけると、ゴブリンが振り上げた剣を弾き飛ばし、そのままの勢いでゴブリンを

斜めに切り捨てる。


「早く逃げてください!」


 ニックが言うと、親子は足早に逃げて行った。それを追いかけようとするゴブリンも切り捨てる。


「くそっ、キリがない」


 襲い来るゴブリンを次々に斬りつけながら、マックスの元を目指す。マックスは数人の部下を引き連れてゴブリン集団の真ん中で戦っている。


 それ以外の場所でも戦いは巻き起こっていた。右手の方では数人の兵が効率よくゴブリンを処理しているが、左手の方では兵が一人。数十匹ものゴブリンに襲い掛かられ、次第に悲鳴も聞こえなくなった。


 戦いが続くごとに被害も広がって行く。放たれた火は次々に家屋に燃え移り、ここいら一帯を焼き尽くさんばかりに燃え盛っている。


「隊長!ここにいては我々も危ない!」


 ニックは叫ぶ。猛烈な熱風が襲いかかって来る。


「分かってる!でもこいつらが——」


 マックスが叫び返した時、戦況が変わった。


 それぞれ好き勝手な場所で暴れていたゴブリンが一斉に走り出した。数千ものゴブリンが砂煙を上げながら熱風を切り裂いて走る様は、恐怖以外の何者でもない。


 数秒もしないうちにゴブリンはその場からいなくなった。信じられないくらい整然と一直線にある方向に向かっている。


「東南の塔か!」


 ニックは叫び、ゴブリン達を追いかける。


「塔で何をする気だ」


 同じく走って来たマックスが言う。


「分かりません。でも、ファントムが関係しているんでしょうか」


 確証は無い。だが思い返してみると、先日のデーモンも魔王炉にまっすぐやって来た。ファントムには魔物を呼び寄せる何かがあるのかもしれない。


 東南の塔に着くと、周囲をゴブリンが取り囲んでいた。扉が固く閉まっているため中には侵入されていないようだが、この数が襲いかかれば時間の問題で破られるだろう。


 ニックは追いついたゴブリンの集団に剣を振り上げる。


 すると、東南の塔の入り口が音もなく開いた。中から人影が現れる。それは、


「レディオジャンパー・・・」


 黒いローブを頭から被った、あの忌々しい人影だった。白濁したキューブを手にしている。


「やられたのか・・・」


 マックスも息を吐く。


 レディオジャンパーはキューブを懐にしまうと、ゴブリン達を掻き分けてこちらに向かって来る。歩くと言うよりも、滑るように。


 ゴブリン達はしばらくその様子を見送っていたが、数匹のゴブリンが表現し難い奇声をあげてレディオジャンパーに襲いかかった。それが合図であるかのように、他の数千ものゴブリンも一斉に襲いかかる。


 キーン・・・


 あの音が響き、数匹のゴブリンがレディオジャンパーに触れるか触れないかといった瞬間、レディオジャンパーを中心に何かが弾け、襲いかかろうとしていたゴブリン達を吹き飛ばした。


 レディオジャンパーは身動き一つしない。


 ほとんどのゴブリンは傷一つなく、再び襲いかかる。が、再び吹き飛ばされる。それが何度も繰り返されれる。


 その間もレディオジャンパーは身動き一つしない。


 何度か繰り返された後、ふとレディオジャンパーがゴブリン達を見回したように見えた。そう見えただけかもしれないが、その一瞬だけ空気が止まった。


 キーン・・・


「あの音だ・・・」


 忌々しげなマックスの声。その瞬間、レディオジャンパーから何かが次々に放たれ、周囲のゴブリン達を切り裂いた。それはまるで空気の刃のように、ゴブリン一匹一匹を執拗に追いかけ、確実に切り裂いていく。


 悲鳴や奇声が響き渡り、肉を裂く音や血飛沫が飛び散る地獄絵図。その間もレディオジャンパーは身動き一つしない。


 ほんの数秒。ほんの数秒の間に、その場で動くゴブリンはいなくなった。


 様々な部位や何色とも言えない血溜まりの中を、レディオジャンパーは気にも留めずに足を進める。ニック達の方に向かって来る。


 そして、呆然とするニック達王都警備兵の間を気配も無く通り過ぎて行く。


 はっとして振り返るニック。


 キーン・・・


 そこにはもうレディオジャンパーの姿は無かった。





 

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