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02


 ファントム——魔王の体内で生成される、結晶化された魔王の魂。特殊なエネルギーを発する『魔王炉』の核として使用されている。上から見ると六芒星の形をしたセオドール王国の六つの頂点に設置された魔王炉はそれぞれが共鳴しあって王国全体に網の目のように結界を張り巡らしている。


 魔王炉が設置されて数百年——最初の魔王炉は一千年と言われる——セオドールが魔物の脅威に晒される事は無かった。高い城壁に囲まれているからとも言えるが、魔王炉が張り巡らした結界は最強の魔物であるドラゴンの襲撃さえも跳ね返した。

 

 ファントムが盗まれてしまった為、その結界の役割を担っていた魔王炉が二つ機能を停止している。それは結界に綻びが生じている事を意味していた。


「これは、我々に対する挑戦だ!」


 王都警備兵第一分隊長のマックスはそう言うと、テーブルを強く叩いた。コーヒーの入ったマグカップが一瞬、宙に浮く。


 ニックとマックスは王都警備兵の本部に来ていた。作戦や護衛等で呼び出されるまではここにいる事が多いが、必ずしもここで待機していなければならないわけではなく、あまりここを使う者はいない。現に今はニックとマックスしかいない。


「しかし」


 長髪で優しげな雰囲気のあるニックは呟く。昨夜の事を思い出してみても、夢の中にいるような出来事だった。


「ヤツにはずっと弄ばれている様子でした。数十人でかかっても、傷一つつけられなかったどころか、触れる事すら出来なかった。どうすればいいんでしょうか」


 言ってマグカップに口をつける。苦くて芳醇な香りが口の中に広がる。


「わからん。あんな術を使うヤツは初めて見た。小さな音をきっかけに行動を起こしているように見えたな」


 顔に傷のあるマックスはが苦笑いを浮かべると迫力がある。


「私には小さな音が行動に作用しているように見えましたが」


「まあ、どちらでもいい。とにかく、あいつの対策を考えなければならん。他のファントムを狙って来るだろうしな。北と北東の魔王炉周辺は結界が綻んでいて、そこにも兵力を費やさなければならん」


「シリルとアンディの具合は?」


 ニックは昨夜怪我を負った若い兵の容態が気になった。


「治癒魔法でどうにか腕は繋がったらしい。だが、しばらくは安静との事だ。ここで戦力が減るのは正直痛い」


 マックスは頭を抱えた。


「とにかく、警戒は怠る訳にはいかない。俺たちは東南の魔王炉の様子を見に行こう」




 ファントムが半永久的に魔力を発生させる事に気づいたのはほんの数十年前だったらしい。セオドール王国はそれを生活の為に活用してきた。灯りを灯す事だったり、一瞬で湯を沸かす、生物を冷凍するなど、一般家庭でも利用されている。病院では生命維持や治療に使われており、国王の城郭の警備システムも魔王炉によるもの。今では軍事利用も視野に入れているらしい。


 現状特に大きかったのは農業で、あらゆる植物に適した環境を人為的に作り出す事が出来るようになったことで食料の安定供給に寄与し、他国との取引にも利用され安定した経済の礎となった。


 王国の南側はその農場が占領しており、中心には国王の城郭が鎮座している。城郭からは放射線状に馬車が運行されていて、蜘蛛の巣のように交通網は張り巡らされている。ただ、馬車とは言っても馬に引かれているのではなく、魔王炉からの魔力が幌を動かしている。習慣的に馬車と呼ばれているだけだ。


 ニックとマックスはその馬車に揺られて東南の魔王炉のある塔までやってきた。


 塔の周辺では王都警備兵達が見回りを続けている。


 セオドール王国にある六本の塔は全て同じ高さに揃えられており、王国の中でも最も高い建物として城壁を支えている。その最上階に設置された魔王炉が互いに共鳴し合い、王国を網の目のように包み込む。その結界の一本一本が、同時に王国中に魔力を運ぶ供給網となる。


 二人はひと一人入れるくらいの大きさの入り口をくぐり、塔のエントランスにいた。円形で、一般的な家屋くらいの大きさ。上階に行くに従い狭くなっていき、ここの最上階に魔王炉はある。


 延々内階段を上って言ってもいいのだが、さすがに骨が折れる。


 マックスとニックは、エントランスの隅にあるリビングテーブルほどの大きさの板に乗る。するとその板はゆっくりと上昇し始めた。魔王炉の力で昇降するこの板のおかげで、階段を上る必要はない。


「ニック、この王国の周囲には魔物が発生しやすい事は知っているな」


 マックスはふいに、正面を向いたまま言った。


「はい。それはこの地方に点在する九人の魔王の影響力のせいだったと言われていますね。その九人の魔王に囲まれた丁度真ん中が、この王国だとか」


 昔から言い伝えられて来た事。その影響力から王国を守って来たのが、魔王炉の結界だ。


「そうだ。そして今朝、九人目の魔王の討伐に成功したとの連絡を受けた。まあ、実際に討伐したのは三日前らしいが」


「九人目?ではこの地方の魔王は全て討伐されたと言う事ですか?」


「そうなる。まあ、相討ちでファントムを持ち帰る事が出来なかった例もあるが、全ての魔王が討伐された事は確認している。だからだ、ニック」


 マックスはニックの方を向いた。


「魔王が全て倒されたら、この王国の脅威も去ると思うか?」


 マックスの問いに、ニックは考え込んだ。魔物を発生させる原因だとされる魔王がいなくなったのなら、魔物の脅威も無くなる気もする。ただ、魔王は数百年かけて一人ずつ討伐されている。それなのに魔物の脅威は減っていったようには思えない。ゼロになったらなくなるのか?


 そんなニックの考えを読んだのか、


「そう、それは誰にも分からないんだよ。魔王と共に魔物どももきれいさっぱり消えてくれりゃあこっちは楽なんだがね」


 マックスはそう言って苦笑いを浮かべた。


「そうは言っても他の地域にもまだ魔王はいる。そいつらの影響がここにも及ばないとも限らない。どちらにせよ、警戒しておくに越した事はないな」


 昇降板だと五分程で最上階にたどり着く。最上階は四方を柱で支えられている空間で、壁は無く王国全体を見渡す事が出来る。


 部屋の中央には台座があり、六角柱にカットされたクリスタルが円形に配置されている。その中心にファントムを設置する事で、魔王炉は稼働を開始する。


「誰もいませんね」


 ニックは呟く。この場所を管理していた魔術師はいただろうが、今はその姿は見えない。


「魔王炉には高度な警備システムが設置されているからな。その信頼もあるんだろうが」


 マックスは白濁したキューブを眺める。冷たくも見えるファントムだが、今でも無限のエネルギーを放出し続けている。


 何者かがこの魔王炉に触れようとすると大音量の警報音が鳴り、全ての入り口という入り口が閉じるようになっている。壁に開いている窓もそう。そしてファントムは手で持てないくらい熱くなる。


 そんな警備システムだが、


「そうやって盗まれて来たんだろうがな」


 確かに相手は普通ではないが、警備システムに対して慢心があったのではないか。


「隊長、北と北東のファントムは盗まれてしまいましたが、予備などは無いのでしょうか?」


 ニックの疑問。何百年も六つだけで工面していたのだろうか?それに、魔王が九人いたのなら、ファントムはその分無ければおかしいのではないか?


「ある、と言う話もあれば、無い、と言う話もある」


 マックスは曖昧に言う。


「モノがモノだけに潤沢にあるって事はないだろうが、ゼロでも無いだろう。だがそれがどこにあって、何に使われているかなんかは俺たち下っぱには知る由もない。そのおかげか知らんが、最近はファントムへの報酬が激増しているらしい」


 今回の盗難事件が起こってから、ファントムを狙った魔王討伐に向かうパーティが激増した。王国が金に糸目をつけずに募ったのが原因だが、そのせいで全滅したパーティもいくつかあったらしい。


「まるで魔王狩りだな」


 マックスはそう言うと、王国とは反対側を見渡す。遠くに見える千メートル級の山に、魔王は住んでいたらしい。それがセオドール王国の周囲には九つ。いまはそのどこにも魔王はいない。これで王国が平和になってくれればいいのだが。


 そう思いつつも、昨夜の様子が蘇る。共鳴跳躍者レディオジャンパーと呼ばれたあいつは、王国にファントムがある限りは現れるだろう。


 この東南の塔からは北東の塔がかすかに見える。


「ん?」


 マックスが見ていた北東の魔王炉の辺りから、こちらに何かが向かって来るのが見えた。鳥だろうか?鳥にしては大きいような——


「デーモンだ!」


 ニックの叫びに、マックスは目を凝らす。ひょろりとした赤黒い肌をして、蝙蝠のような羽を背中に生やした魔物が二匹、こちらにまっすぐ向かって飛んでくる。 

 

「ニック、剣を取れ!」


「はい!」


 ニックは手に馴染んでいない剣を握る。そして風を切って猛スピードで向かってくるデーモンに切りかかる。が、寸前のところでかわされ、デーモンは通り過ぎて床に激突した。ニックの剣は石レンガに傷をつけただけだった。


 見ると、マックスにデーモンがのしかかっているのが見えた。加勢に向かう。が、戻って来たデーモンに体当たりされ、壁に吹き飛ばされる。


 ニックは壁を蹴る。その勢いで剣を下から振り上げると、デーモンの片方の羽を切り落とした。デーモンは激しく叫ぶ。切り落とされた羽はしばらくのたうちまわってから動かなくなった。


 ニックはマックスの方に向かう。剣を振り下ろすとマックスに当たってしまう。ふいに考え、剣を横に払う。と、マックスにのしかかっていたデーモンは羽ばたいて剣を避けた。


 二人並んで剣を構える。


「一匹ずつ行くか」


「はい」


 言うと、マックスは身を低くして飛び込んだ。片方の羽を失ったデーモンは、羽の付け根から紫色の血を流しながらよろよろとマックスの剣撃を避ける。その避けた先に、ニックがいた。


 ニックの剣はデーモンの頭を捉え、デーモンを真っ二つに切り裂いた。


 そこに飛び掛かるもう一匹のデーモン。


 ニックは振り下ろされた爪を剣で受け流し、押し返す。剣を振り上げると、デーモンは後方に飛んだ。その背後からマックスが剣を横に薙ぐ。デーモンの頭が飛んで、ごとりと音を立てて床に転がった。


「これで全部でしょうか?」

 

 剣についた紫色の血を紙で拭ながらニック。魔物の血は剣を錆びさせやすい。


「おそらく全部だろうな。デーモンだから何とかなったが、それ以上の魔物が出てきたら二人じゃ対処出来ん」


 マックスは剣を振る事で血を振り落としている。


「どうやら、魔王と魔物は関係が無いのかもしれないな」


 


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