終末の終わり
人というものは周りに、そして時代に押しながされるもの。
誰もそれには逆らえない。人間はちっぽけだから。
ミリアムは周りの期待通りに、本人にとっては期待外れなことに妊娠した。
お腹の子供の父親であるガブリエルは毎日のようにミリアムの部屋を訪れた。
「ミリアム。君の結婚相手だけれども、ようやく決まったよ」
私が結婚するのは、大工らしい。今はおちぶれてしまったが、王族の末裔ということだった。
「この子は救世主になるんだ。大事にするんだよ」
親はいつも過度の期待を子供に課す。自分が歩めなかった人生を子供に歩ますために。
子供は親の操り人形となる。
そして、その操り人形は大きくなると糸を切ってまた、操り人形を作りだす。
時代を重ねるごとに期待だけがふくらんでいく。
その後、私はその大工のもとに嫁ぎ、住民登録のため、ガリラヤに向かった。
その道すがら、私は産気づいたのだった。
「すみません。子供が産まれるんです。どうか、宿を・・・」
宿はどこもいっぱいだった。
出産となると、宿屋の主人にとっては迷惑な話だ。手伝わなければならない。
しかし一方で、主人たちは出産を他人に勧めるのだろう。
本当に勝手だ。
「私も他人のことを言えないけれど」
あんなに子供を産むのに、疑問を抱いていたのに結局は周りに流された。
自分も周りの人間もその卑怯さは変わらない。
「ミリアム!ここの主人が馬小屋を貸してくださるそうだ!」
深夜。産まれたのは、男の子だった。残念ながら、ガブリエルが言うような救世主になれそうにない。
こんな小さい生き物が世の中を救えるはずがない。
ミリアムはそっと子供を抱き上げた。
「おや、誰か来るぞ」
夫は人の影を認めて小屋から出ていく。
「私のような人間にならないで」
またひとつ、希望が増やされた。
ミリアムは馬小屋の窓から空を見る。夜空にひときわ光を放つ星を見つけた。
「星が綺麗ねぇ。
イエス」
ミリアム、日本ではマリアと呼ばれるこの女性は後に聖母と賛美されることになる。
彼女の息子は長じて後、時代に逆らって処刑された。