【Side Episode】沈黙の告白(桐生美琴の視点)
視線の先に、彼がいた。
教室の端、隅の席。以前と変わらず静かで、目立たない場所に座っている。
でも、どこか違う。空気が変わっていた。
真っ直ぐな背中。まとう空気が、以前より硬質で研ぎ澄まされている。
私は気づいていた。
(……変わったんだね、誠)
私は知っている。彼が変わった理由。
あのとき、私が——彼を、あんな形で裏切ったから。
昔、私は知っていた。
高森誠は優しい人だった。無口だけど、いつも人のことを見ている人だった。
不器用で、何かを伝えるのが下手で、それでも一生懸命で。
気づけば、彼の隣にいるのが当たり前になっていた。
でも——私は、逃げた。
周りの空気に流されて、友達に合わせて、誠のことを“気持ち悪い”って笑った。
本当はそんなこと、思ってなかったのに。
あの一言が、彼をどれだけ傷つけたか。
彼の目が静かに伏せられた瞬間、私は見てしまった。
“ああ、終わったんだ”って。
そして、それから——彼は変わった。
誰のことも見ず、静かに笑うこともなくなって。
でも、今の彼はまた誰かと話している。目を見て、言葉を交わしてる。
(もう、私の届かないところにいるんだ……)
それが、苦しかった。
彼が変わったのは、きっと前に進もうとしたから。
私は……あの時から、一歩も動けてないのに。
(ごめんね、誠……)
声にはならない、沈黙の告白。
届かないとわかっていても、私は今日も、彼の背中を見ている。