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僕を見下した元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきたけど、もう遅いよ  作者: 朝陽 澄
第1章:見下されて、自由になった日
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第6話:学園分析プロジェクト、始動

月曜の放課後。

 生徒会室には、プロジェクターの映像が静かに映し出されていた。


「——これは、全学年アンケートの集計結果よ」


 紗月は、無駄のない動きでページを送っていく。

 出席率、部活動の所属傾向、学校への不満と満足度。

 そのどれもが“形”として数字で表れていた。


「ここから、傾向を割り出すのがあなたの役目。観察と、仮説構築。そして検証」


「かなり……本格的なんだな」


「これは、ただの生徒会活動じゃない。“学園全体”の空気を変えるための、改革計画」


 紗月の声は静かで、けれど強い芯を感じさせた。

 彼女が何を目指しているのか、僕はまだ全部はわからない。

 でも、その表情を見て、思った。


(この人のそばにいて、支えていこう。俺にできることがあるなら)


 


「で、高森くん。最初の分析対象だけど……クラス2-Bの“文化委員崩壊”問題からいきましょうか」


「……あー、それは知ってる。担当の子が一人で仕事抱えて、崩れたってやつだ」


「“表面上の協調”と“実質的な孤立”の典型例。分析に向いてる」


 


 それから数十分。

 僕は、かつてない集中力でデータを追い続けた。


 提出物の時間、班活動時の発言頻度、連絡ノートの文面——

 どれも、数字に変換すれば、人間関係が見えてくる。


 僕の“観察癖”が、役に立っていると感じた瞬間だった。




 その日の夜。

 帰り道、コンビニに寄った僕は、外で誰かに呼び止められた。


「……誠くん」


 振り返ると、そこには桐生美琴が立っていた。

 制服のまま、少しだけ息を切らせている。


「……またか」


「今日の放課後……生徒会室にいたんでしょ。教室で聞いた」


「それがどうかした?」


「……どうして、そんなに変われたの?」


 その問いに、僕は一瞬だけ黙った。


「変わったんじゃない。俺はずっと、俺のままだよ」


「……でも、前は……」


「ただ、誰にも見られてなかっただけ。誰にも理解されなかっただけ。お前にも、な」


 


 その言葉に、美琴はぴくりと肩を揺らした。

 だけど、それでも彼女は言葉を続けた。


「……もう一度、やり直せないかな。私、ちゃんと誠くんのこと、見ようとするから」


 必死な声だった。

 以前のようなプライドも、取り繕いもなかった。


 けれど、僕は首を横に振った。


「遅いよ、美琴。……あのとき、俺が欲しかったのは、そういう言葉だった。でも、もう今は違う」


 


 彼女は、黙って立ち尽くしていた。

 まるで“拒絶された”という現実を、受け止めきれないように。


 そして、僕は背を向けた。


 過去ではなく、今を見てくれる誰かのもとへ——




 次の日、紗月から呼び出されて、生徒会室に入ると、彼女は真剣な顔でこちらを見ていた。


「高森くん。ひとつ、確認しておきたいことがあるの」


「なに?」


「……私に“敵”ができても、あなたは味方でいてくれる?」


 その問いに、僕はわずかに眉を寄せた。


「……どういう意味?」


「……このプロジェクト、うまくいけば、生徒会のあり方そのものを変える。だけど、古い価値観の人たちは、きっと邪魔してくるわ」


「……教師とか、生徒とか?」


「そう。私に嫉妬してる女子もいる。成績だけで認められてると思ってる人も。敵は身近にたくさんいるのよ」


 


 彼女の表情は、凛としていた。

 強い覚悟を秘めた瞳だった。


「私は、それでも進むわ。あなたが一緒なら、もっと速く、もっと遠くに行ける。だから——」


 


「俺は、どこまでも協力するよ。……最初から、そう言っただろ?」


 


 その言葉に、彼女は一瞬だけ目を見開いて、やがて静かに笑った。


「……ありがとう、高森くん。やっぱり、あなたを選んでよかった」


 


 その笑顔は、これまででいちばん優しいものだった。

――見下されて、自由になった日から。


はじめまして、あるいはこんにちは。

ここまで第1章『見下されて、自由になった日』をお読みいただき、ありがとうございます。


この物語は、「自分の価値を他人の目で決められてしまう」現代の空気感を、

“透明な地味男子”である高森誠というキャラクターを通して描くことから始まりました。


「評価されない」「注目されない」「モブであることが楽だと信じていた」彼が、

白川紗月という才女にその価値を見出された瞬間から、物語は静かに動き始めます。


元カノ・桐生美琴とのすれ違いと未練。

過去に縋ろうとする彼女と、今を見つめて前に進む誠。

この対比は、現実の人間関係にもきっと共感できる部分があるのではないかと思っています。


次章では、“興味本位で近づいた誰か”が、“予想外の感情”に気づいていく展開や、

誠の変化に対して嫉妬を抱く者たちの影、

そして紗月自身が抱える「もっと深い事情」へも触れていく予定です。


地味だった少年が、自分の価値を少しずつ認められていく過程。

そしてそれを支える少女と、後悔する元恋人。

そんな三角の揺らぎが、今後どんな波紋を広げていくのか――


ぜひ、次の章もご期待ください。

また、感想などお待ちしております。

それでは、また第2章でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
今まで読んだことのない切り口の作品で、 とても興味深く読ませていただきました。 次章以降も楽しみにしております。
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