表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/37

第14話:沈黙の余波

朝、生徒会室のドアを開けると、机の上に置かれていた封筒が目に入った。


見慣れた、けれど確かな“重さ”を持つ——匿名の告発文。


差出人不明。宛名もなし。ただ、生徒会の机に“置かれていた”という事実だけが、答えだった。


僕は封を開けると、数枚の紙を読み進めた。


「共話委員の○○さんは、以前の風紀委員時代に

 “報告を握り潰した”ことがあります。

 その当時、私は被害を受け、相談したが、

 “他の子も我慢してるから”と言われ、泣き寝入りしました」


「声を上げても届かないなら、意味がない。

 それが、私たちの沈黙の理由です」


胸の奥が、静かに軋む。


共話モデルが、希望を灯し始めたと思っていた矢先――

その“中の人間”に対する疑念が、こうして投げかけられてきた。


「……制度を変えても、“中身”が変わらなければ意味がない」


僕はつぶやいた。


放課後、生徒会室。

紗月、美琴、そして共話委員の中核メンバーたちが集まっていた。


手元にあるのは、告発文のコピー。


読み終えた共話委員の一人が、固く拳を握った。


「……本当に、彼女がそんなことを?」


「わからない。けれど、“書かれていた”という事実は消えない。

 今、僕たちが試されているのは、制度じゃない。

 “制度の中にいる人間が、どう応じるか”だと思う」


紗月がうなずく。


「共話モデルの理念は、“声を拾うこと”よ。

 たとえそれが、制度を支える誰かへの疑義でも、正面から受け止めなければいけない」


僕たちは決めた。

この告発文を、公的に扱うと。


ただし、名前を伏せたうえで、“共話委員の信頼性と制度の透明性”に関する公開意見募集を再び行う。


「正しさ」は押しつけない。

でも、疑念には“開かれた形”で応答する。


それが、共話モデルの“本質”であるべきだった。


意見募集は、予想以上に反響を呼んだ。


・“声を上げること”の是非

・制度の中の人間に対する不安

・「もう一度、委員の選出方法を見直してほしい」という提案


そのどれもが、静かに、けれど明確に制度の“芯”を揺らしていた。


美琴がそっと言った。


「……制度って、完成させることじゃないのかも。

 揺れ続けることを、恐れない勇気のほうが大事なんだね」


僕は頷いた。


「変化は、一度じゃ終わらない。

 “改革”って言葉は、まるでゴールみたいに聞こえるけど、

 本当は、ずっと繰り返す“始まり”なんだと思う」


その日の夜。


生徒会公式から発信された文書には、こう書かれていた。


【共話モデルの運営に関する追加方針】

・共話委員の再任命プロセスに第三者的視点を導入

・匿名での委員評価制度の導入

・過去に報告を受けた委員経験者への再ヒアリング


そして、最後にこう記されていた。


「声を聞く制度は、声を恐れない制度でなければならない」


告発は、決して歓迎されるものではない。

でも、“告発が成立する空気”こそが、かつてなかった“新しさ”だった。


沈黙が破られた今、

かつて見えなかった“痛み”がようやく形を持つ。


それを受け止めるには、まだ僕たちは未熟かもしれない。

でも、未熟でも、続けることはできる。


変わるとは、“未完成であることを恐れない”という、覚悟の継続だと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ