表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

第13話:揺らぎの中で

新制度――『共話モデル』が動き始めて、二週間。


校内では、これまでの「風紀委員会」に代わる調整役として、

“共話委員”が各学年・各クラスから任命・推薦され、少しずつ動き出していた。


だが――その滑り出しは、決して順風満帆ではなかった。


「……なんか、結局“ただの話し合い”で終わってる感じしない?」


ある教室で、そんな声が漏れる。


「“対話で解決”ってきれいごとっぽくない?

 こっちは困ってるから言ってるのに、“その気持ちは分かります”で終わるんじゃ意味ないでしょ」


そう。

“共話”は、「すぐに何かを裁く」ことはしない。

だからこそ、急を要するトラブルや、明らかな加害に対しては、“物足りなさ”を感じる生徒もいた。


さらに、旧風紀委員の一部メンバーからは、こうした皮肉な声も届く。


「新しい制度は“優しい顔”をしてるだけ。

 でも本当に秩序が崩れた時、誰が責任を取るの?」


その日の放課後、生徒会室。


僕と紗月、美琴、それに共話委員の中心メンバーが集まっていた。


ホワイトボードに記されたのは、生徒から寄せられた“共話モデルへの懸念と不満”。


・トラブルが長引く

・責任の所在が曖昧

・正義感の強い子ほど、かえって疲れてる


「……分かってた。こうなることは」


紗月が小さくつぶやく。


「“対話”は、解決を遅くする。

 それでも、“押しつけない文化”を目指すなら、どこかで耐えなきゃいけない」


でも、美琴が口を開いた。


「……ねえ。“対話”って、本当に“我慢する側”の努力で成り立つもの?」


皆が黙る。


「変わるって言ってたのに、いつの間にか“今まで我慢してた側”が、また耐えてる。

 制度は変わっても、力の構図は……まだ壊れてないのかも」


僕はハッとした。


共話委員の何人かは、ここ数日で疲弊の色を隠せずにいた。

“聞く側”に回ること、それが常に「感情を飲み込む」ことになっていた。


その夜。僕は一つの改善案を提出する。


「共話モデルに、“サポート・チェック機構”を設ける」

・共話委員が一人で抱え込まないよう、定期的にメンタルチェックを行う

・“判断が必要な案件”は、生徒会と共話委員が合同で緊急対応する仕組みにする

・制度の改善点を、生徒全体から定期的に意見収集する


それは、“完璧”ではなかった。

でも――“揺らぎ”の中で、制度を“育てていく”意思表示だった。


週明け、改訂版の共話モデル案が発表された。


その内容に、賛否はあった。

でも、明らかに“変わることを恐れていない”空気が、少しだけ流れ始めていた。


「……なあ、前よりも、“声を出していいんだ”って感じる時、増えた気がする」


そんな言葉を、すれ違った一年生がぽつりとつぶやいていた。


小さな“揺らぎ”は、確かに不安定だ。

でもその揺らぎの中で、“硬直した秩序”よりも柔らかく、

それでも芯のある“関係性”が芽生えていく。


「結局、制度って“人”なんだと思う」


紗月が、生徒会室の窓の外を見ながら言った。


「どんなに形を整えても、それを動かすのは“生きてる誰か”。

 なら、変わり続けられる仕組みを、“人”に託すしかないのよ」


僕はゆっくりうなずいた。


今の僕たちはまだ、答えを持っていない。

でも、問い続ける力は、確かに持っている。


その力を、手放さない限り――

“揺らぎの中”でも、僕たちは進める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ