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第12話:声のかたち

桜井委員長の辞任が発表された翌朝、

昇降口の掲示板には、風紀委員長代理の名前と、簡潔な引き継ぎ連絡が貼られていた。


だが、そこにあったのは「終わった」という空気ではなかった。

むしろ――今から“制度の空白”が始まる、そんな予感だった。


風紀委員会の上層部が抜けたことで、実質的な統率は機能していない。

“次に誰が引き継ぐか”ではなく、“この委員会をどう変えるか”が問われていた。


そして、僕たち生徒会に求められたのは――

ただの監視者ではなく、「再構築の触媒」としての役割だった。


放課後の生徒会室。

僕と紗月、そして文化委員、生活委員からも数名が招かれていた。


議題は明確だ。


「風紀委員会に代わる、新しい“校内秩序のあり方”をどう描くか」


紗月がホワイトボードに書き出す。


《現状の課題》

・上意下達の体質

・性別・立場による発言の軽視

・“正義”の独占による抑圧

・現場と方針の乖離


「この4つを、“構造”として修正できない限り、何度でも再発する」


文化委員の一人が手を挙げた。


「でも、“ルールの管理役”自体は必要じゃない?

 風紀がなければ、今度は本当に秩序が崩れそう」


僕はうなずいた。


「だから、“命令する人”じゃなくて、“つなぐ人”に変える。

 現場の声を吸い上げ、記録し、共有し、調整する――

 つまり、“ファシリテーター”としての風紀委員会。

 役職名も変えるべきかもしれない」


「名前まで?」


「うん。名称が持つ“印象”は、意外と大きい。

 例えば『校内コミュニティ調整室』とか、もっと柔らかく、対話を前提にする名前に」


「……本当に変える気なんだね」


生活委員の一人が、ぼそりとつぶやいた。

その言葉に、静かにうなずく声がいくつも続いた。


“変える”。

それは、理念ではなく、今や実務の話になり始めていた。


その夜。僕のもとに、一通のDMが届いた。


送り主は、旧風紀委員の一年生。

名は伏せられていたが、内容には揺るがぬ覚悟があった。


「私は、何もできませんでした。

 でも今なら言えます。

 “委員長の決定だから”という理由で、

 私も誰かを黙らせる側にいました。

 ……私も、変わりたい。

 だから、できることがあれば、手伝わせてください」


その文章を読み終えて、僕は静かに目を閉じた。


“声”は、すぐに正義にはならない。

けれど、“変わろうとする誰か”の中に届いた時――

それは、確かにかたちを持ち始める。


見えないところで生まれる、微かな変化。

それを繋ぎ、支えるのが、今の僕たちの役割だ。


週末。

生徒会主催の新しい校内制度案に関する公開説明会が開かれる。


その名は――


『共話モデル(Dialogue Commons)』


“正しさを押しつけるのではなく、話し合いを共にする”。


まだ未完成。

でも、そう明言していい制度にする。

完成形よりも、“成長できる形”を目指して。


紗月が最後に言った。


「私たちの活動は、“正解”を出すことじゃない。

 “正解を求めて、対話する文化”を、絶やさないことよ」


僕はその言葉を胸に刻んだ。


次に声を上げる誰かが、

もう黙らされないように――



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