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第11話:問われる答え

全校生徒への告知から、三日後の放課後。

講堂には、予想以上の数の生徒たちが静かに集まっていた。


「風紀委員会の運営に関する意見公聴会」。


だが、この場に緊張が走るのは、単に“新たな問題”のせいではなかった。

生徒たちは皆――すでに一度、同じ議題を行っているからだった。


あのとき。

相川玲奈の事例をもとに、風紀委員の強権的な態度が批判され、そのことによって形式的な見直しを求める為に話し合いが開かれた。

公聴会の最後に委員長の桜井も「改善を進める」と口にした。


でも、結局――


何も変わっていなかった。


質疑応答の場面。


「委員長、前回――相川玲奈さんの件で“再発防止”を宣言されましたよね?

 あの時、委員内での意識改革を行うとまで言ったはずです。

 それなのに、なぜまた、同じような“無視”や“押しつけ”が繰り返されているんですか?」


桜井は静かに答えた。


「確かに、形式上の改善策は講じました。報告体制や対応フローも一部見直しました。

 ですが……現場の委員たちが“どう動くか”までは、統制しきれませんでした」


その答えに、ざわめきが広がる。


紗月が一歩前に出た。


「つまり、“本質的な変化”は起きていなかった、ということですね。

 声は受け取ったふりをし、手順だけ整えて――結局、体制は何も動いていない。

 それはもう、“怠慢”です。改革を言葉だけで済ませた、あなた自身の責任です」


桜井の顔が、一瞬だけ揺れた。


「……そう言われても仕方ありません。ただ……改善には、時間がかかると、思っていた」


「時間ではなく、“意志”が足りなかったのでは?」


その時――また、一人の生徒が立ち上がる。


風紀委員の補佐を務めている、桐生美琴だった。


「……委員長。私たち補佐メンバーは、何度も“現場の声”を上げていました。

 でも返ってくるのは、“上で検討する”の一点張り。

 実際には、意見は握りつぶされていましたよね?

 私たちは、ただ“同じことを繰り返すための装飾”でしかなかった」


桜井は視線を伏せた。


「……美琴。君たちの意見が軽視されていたことは……否定できません」


会場には、沈黙が流れた。


だがその空白を、ある声が埋める。


「じゃあ、聞かせてください。

 ――“前回の議論は、無意味だった”ということでしょうか?」


その声に、桜井は顔を上げた。


「……いいえ。無意味ではなかった。

 むしろ、あの時の議論があったからこそ、今こうして“もう一度問われている”。

 私が、本当に向き合わなければならないのは、形ではなく“声の重み”でした。

 でも、気づくのが遅すぎました。……申し訳ありません」


しばらくの静寂ののち――

桜井は、深く頭を下げた。


そして、その夜。

彼の辞任届が、先生宛てに正式に提出された。


生徒会室。


僕は、匿名意見フォームに届いた一通の文章を読み上げた。


『一度目の声が無視されたとき、もう二度と話すものかと思いました。

 でも今回、誰かが再び問い直してくれた。

 だから、もう一度だけ信じてみようと思いました。』


問い続けることは、時に“無力さ”に似ていると思う。

でも、問い続けた先にしか、本当の“答え”は現れない。


変わらなかった事実に向き合いながら――

それでも、僕たちは、また次の問いを投げる。

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