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スピンエピソード:白川紗月の孤独「勝ち続けるために、私は心を捨てた」
静かな夜、生徒会室の窓を風が叩く。
資料の山に囲まれながらも、白川紗月の目は冴えていた。
その視線は書類ではなく——机の上の、小さな写真立てに向けられていた。
「……あなたなら、どうした?」
そこには、笑顔の幼い紗月と、もう一人の少女が写っていた。
「“私”だけが、上に行くしかなかった。あのときの約束、私は守れなかった」
完璧であり続けるために、切り捨ててきたもの。
その重みを感じながらも、紗月は立ち止まれなかった。
(高森くんは、違う。彼は、捨てない)
心の奥で芽生える焦りと不安。
彼といると、自分の中の“弱さ”が浮き彫りになる気がする。
「……ねえ、高森くん。あなたはもし、私が“偽り”でできていると知っても、隣にいてくれる?」
風が吹き抜けた生徒会室で、彼女はひとり、問い続けていた。




