スピンオフ:ある女子生徒:副会長という肩書、本当の彼女
白川紗月は、ずっと“特別”だった。
誰よりも頭が良くて、冷静で、正確で。
完璧な人間って、こういう人を言うんだろうと思ってた。
でも、それだけじゃない。
彼女は私の、唯一の“友達”だった。
副会長という役職は、便利だ。
表では優等生として、裏では会議の調整や火消し役。
教師からも信頼されるし、生徒たちのトラブルも回避できる。
だけど——紗月と出会ってから、私は“比較”されるようになった。
「副会長もすごいけど、やっぱり会長には敵わないね」
「副会長もいい人だけど、白川さんの方が頭切れるよね」
そう言われるたびに、笑ってやり過ごした。
でも、心のどこかが痛んだ。
それでも、私は彼女を嫌いにはなれなかった。
だって彼女は、誰よりも努力してたから。
「あなたは“感情”を動かせる人。私はそれができないの」
そう言ったときの紗月の目を、私は忘れない。
まるで、何かを諦めているようだった。
(そんなことないよ。あなたは人のために動いてる)
何度もそう言いかけて、飲み込んだ。
私は、彼女の“影”を知らない。
でも、たぶん彼女は——誰よりも、誰かの優しさを求めている。
最近、彼女が“高森誠”に少しずつ距離を近づけているのがわかる。
それが、羨ましいと感じた。
嫉妬だなんて、思いたくなかったけど。
(彼女の世界に入れるのが、私じゃなくて彼だとしたら——)
その感情を、私はどこにもぶつけられない。
でも、それでも。
(私は、あなたの味方でいるから)
彼女が困っているとき。
悩んでいるとき。
そのときは、私が支える。
副会長という役職でもなく、
比べられる誰かでもなく、ただの“友達”として。




