サイドストーリー:桐生美琴の視点 ―「静かな炎」
私は、昔から“無難”だった。
成績は上位、容姿はよかったし、友人関係はある程度は築いてきた。
けれど、気づいてた。
——白川紗月は、すべてにおいて“特別”だった。
誰もが彼女に憧れ、嫉妬し、敬遠した。
私もその一人だった。でも、私は逃げなかった。
「紗月、今日も一緒に帰ろ?」
そう声をかけ続けることで、自分の中のコンプレックスと向き合っていたのかもしれない。
でもあるときから、彼女の目に“影”が差しているのに気づいた。
無理をしている。
限界ギリギリで立っている。
それでも誰にも頼れない——そんな彼女が、見ていられなかった。
だから、元婚約者——誠が、彼女に手を差し伸べた時、
私は、心のどこかでこう思っていた。
——よかった、間に合ったんだね。
でも、それと同時に、もうひとつの気持ちも芽生えていた。
……羨ましい。
私にはできなかったことを、誠はやったんだ。
紗月を、ちゃんと「ひとりの女の子」として見て。
私は、ただの“友達”でいるしかなかった。
もし、私に今できることがあるなら。
——それは….
やっぱり言うのはやめて心のうちに秘めておこう。
そうしないと私が惨めになるだけだ。




