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第4話:観察者の孤独、揺らぐ信頼

朝の教室。


僕が席に着いた瞬間、周囲の空気が変わった気がした。いや、実際に“変わっていた”のだ。


隣の席の男子が、そっと机を引く。目を合わせたが、彼はすぐ視線を逸らした。


数分後。担任が教室に入り、朝のHRが始まる。


「高森。ちょっと、来なさい」


呼ばれた先は——生活指導室だった。


風紀委員の一人が、資料を持って待っていた。


「これは……」


手渡されたのは、一枚の“注意書”。


僕は目を通して、思わず小さく笑った。


「……俺一人が“違反”扱い?」


「記録には、そうあります」


淡々とした声。けれど、その目の奥にあるものは、明らかに“何かの意思”だった。


これは、報復だ。


昨日、桜井と対峙した直後。偶然とは思えない。


教室に戻ると、紗月が僕を待っていた。目が鋭い。


「始まったわね。風紀委員会による、“反撃”」


「正面からじゃなく、じわじわと、個別に削ってくる」


「あなたを孤立させるつもりよ。まずは、“空気”で」


その言葉の通りだった。


午後になっても、僕の机に話しかけてくるクラスメイトは一人もいなかった。まるで、僕が「触れてはいけない何か」になったように。


昼休み、生徒会室。


けれど、その中で、ひとつだけ“変わらないもの”があった。


紗月は、黙って机に資料を並べる。そして、淡々と話し始めた。


「昨日の記録を精査して、風紀委員会の“内部情報提供者”を特定した」


「……内部から?」


「名前は伏せる。でも、情報は確か。桜井渉が“独断”で違反対象を選び、委員たちにも“口外を禁じる誓約”を課していたって」


「なるほど。反論できないように、組織を“密室”化してるわけだ」


「そう。でも、密室だからこそ、崩れ始めたら早い」


彼女は、静かに一枚の紙を差し出した。


「これ、見て」


そこには、風紀委員の署名付きの“告発メモ”が印刷されていた。


「委員の一人が匿名で提出してきたの。“このままでは風紀が壊れる”って」


「つまり、内側に、割れ目ができてる」


「ええ。次は、そこに“光”を差し込む番」


僕は頷く。


「でも、こっちも無傷じゃいられない」


「当然よ。だから、聞くわ。——覚悟、ある?」


その目に、わずかな熱が宿っていた。


「……あるよ。最初から、観察するつもりなんてなかった」


「いい返事」


その瞬間、部屋のドアがノックもなく開いた。


「……失礼」


現れたのは、生徒会の八神だった。


冷静な印象の上級生。これまでほとんど前に出てこなかった存在。


「少し、話がある。君たち、生徒会として“何をしている”?」


一拍の沈黙。


紗月が、すっと立ち上がった。


「報告書をご覧になりますか? 風紀委員会の内部構造に関する調査です」


「見せてもらおう。だが、これは忠告だ」


八神の声が、わずかに低くなる。


「“正義”を掲げるのはいい。だが、それが誰かを“潰す”ための武器になるなら、君たちも同じだ」


「私たちは、“壊す”ために動いてるんじゃない。“正す”ために動いてるだけです」


八神は無言で資料を手に取った。そして、去り際にひとこと。


「……ならば、正せ。徹底的に。そして、責任を持て」


扉が静かに閉まったあと、僕と紗月は顔を見合わせた。


「……支持か? 牽制か?」


「どちらも、あり得る。でも、一つ言えるのは——」


「見られてる、ってことだな」


生徒会の内部にも、“風”が吹き始めた。


戦いは、ここからだ。

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