表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

第2話:はじまりの告発、揺れる教室

昼休み、教室。


僕は自分の席で、相川玲奈のノートを読み返していた。綴られていたのは、日常に紛れていた“誰も見ようとしなかった不正”の痕跡。


「——やっぱり、信じていいんだな。これ」


ページをめくるたび、記録の正確さと密度に息を呑む。玲奈は、独りでここまで集めていた。誰にも相談できず、ただ沈黙の中で。


「高森、なに見てんの?」


唐突に声をかけてきたのは、クラスメイトの水原だ。軽口ばかりのやつだが、こういう嗅覚だけは鋭い。


「委員の仕事でな。ちょっとした確認」


「へー……最近、お前ちょっと“生徒会気取り”だよな。なんか……変わったよな」


皮肉の混じる声。笑いながらも、その目にあるのは——不快感。


「変わってないさ。ただ、今はちゃんと“見よう”としてるだけだ」


その返しに、水原は黙った。


放課後、生徒会室。


紗月は、僕の提出した報告案に目を通していた。言葉を選び、事実を損なわず、だが特定を避けた書き方。玲奈の名は伏せ、委員会の実情として“モデルケース”で公開する方針だ。


「いいわね。感情を入れすぎず、でも無味無臭にはしてない」


「ありがとう」


「……高森くん、昨日のメールの件、気にしてる?」


「ちょっとはね。でも、覚悟してた。改革ってのは、誰かの利権を壊すことだから」


紗月は頷いた。


「正直に言うと、私……少しだけ怖い。こういうのって、どこで一線を越えるか、わからなくなる」


初めて見せた、弱さ。


僕は、そっと言葉を置いた。


「そのときは俺が止めるよ。紗月が間違いそうになったら。味方でいるって、そういうことだろ?」


彼女は一瞬、何かをこらえるように目を伏せ、やがて微笑んだ。


「……ほんとに、変わったわね。高森くん」


その夜、生徒会アカウントの掲示板に“モデルケース”が投稿された。


生徒の反応は、早かった。


《これってあの委員会のことじゃ?》

《私も似たような経験ある……》

《名前は伏せてても、気づく人は気づくよね》


意見は賛否両論だった。だけど、少なくとも“波”は起きた。


翌日。


教室に入った瞬間、空気が変わったのがわかった。視線、ざわめき、ひそやかな声。


「……ねえ、これって高森の仕業でしょ」

「マジ?なんであいつが出しゃばってんの?」


僕は席につきながら、気づかぬふりをした。

それでも、ひとりの生徒がそっと声をかけてきた。


「……あの、ありがとう。ああいうの、出してくれて」


顔を上げると、見慣れない女子だった。多分、下級生だ。


「何もできなかったけど、似たようなこと……あって」


小さく会釈して去っていった彼女を、僕はただ見送る。


——こうして、“声”は繋がっていく。


だがその日の放課後。


下駄箱に入っていた白い封筒。無記名。中には、手書きの紙切れ。


《次に暴いたら、お前も壊れるぞ》


怒りではない。冷たい、無感情な脅し。


帰り道、信号待ちの間にスマホを開くと、紗月から一通のメッセージが届いていた。


「次の対象、“風紀委員会”。生徒指導と称して、選抜メンバーだけが特権を持ってる。調べてくれる?」


僕はすぐに返信する。


「了解。資料、ある?」


「一部は手元に。あとで渡すわ。……気をつけてね、高森くん」


スマホの画面を閉じながら、思う。


もう戻れない。だけど、進む先に意味はある。


この声が、誰かを救えるのなら——


これは、始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ