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べからずさま  作者: 長月 ざらめ
1章 口紅編
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12話 地獄の沙汰も■次第

 第12話、全3回に分けて投稿いたします。

 悪霊の中には、ある特定の人物に執着する者がいる。

 その大半が悪霊の死の原因となった人物である。

 死後も残り続けるその人物への執着心と憎悪は、時折プロの霊媒師ですら手に負えない呪いを周りに振り撒き続ける。


 じゃあどうすればいいのか。

 そんなの簡単だ。

 死の原因となった者を霊に差し出せばいい。


 調月(つかつき) 真央(まお)は少なくともそう答える。


 霊は許せないのだ。自分を死に追いやっておきながら、のうのうと生きているそいつらを。人1人を殺しておいて、「そんなことしたっけ?」「ただの遊びだし、自分は何も悪くなくない?」と平和ボケした顔で首を傾けて、年を取っていく殺人犯を。


 彼らを直接この手で縊り殺さないと気が済まない。

 あの世へ行けない。


 その思い(復讐心)からこの世に留まり続ける霊は少なからず存在する。

 そのため、霊が執心している人物を引き渡せば、思いの外あっさりと成仏することが多いのだ。


 そして、大体霊に執心されている人物は、真央に依頼として「霊をどうにかしてくれ」と訴える人だったりする。


 過去にやった遊びで死んだ連中が、今自分達のすぐ傍にいるかもしれない。自分を狙っているかもしれない。

 その疑念が不安へと変わり、最終的に「どうにかしなければ殺されるかもしれない」という焦燥になる。

 ただのお遊びで(・・・・・・・)しかも昔やった遊びが(・・・・・・・・・・)原因で殺されるのなん(・・・・・・・・・・)て嫌だ(・・・)

 そう思って、必死に脳味噌を回転させて、真央達霊媒師へと辿り着いた。


 そんな彼らを、霊へと引き渡す。

 それだけで、霊は勝手に成仏してくれる。


 楽な仕事である。

 これだけで金が入る、とても簡単な仕事。

 危ないことは他人に任せて、自分は自分ができる仕事をこなすだけ。

 今まで散々自分のことを嘘つき呼ばわりしてきて気味悪がっていた連中が、自分に大金を渡さなければ助けて貰えない、いいや私が気分で助けてやらないという優越感。


 だから、真央は、霊媒師の道へと進んだのだ。

 だから、今度は、彼女達の番だった。


 霊媒師を舐め腐った今までのツケが。楽な仕事で得た賃金を踏みにじる無邪気な呪いが。

 彼女達に降りかかろうとしていた。






*****






 笑い声がした。

 きゃらきゃら。きゃあきゃあ。きゃっきゃっ。

 子供の甲高い笑い声、無邪気な笑い声。それが書類から目を離して一息ついた時などの、ふとした瞬間に鼓膜を揺らしている。


 呪われている。そう気づいたのは早い段階だった。


 だって、「どこにいるの?」と。


 迷子になり親を探しているようで、かくれんぼで隠れている人を探しているような、そういう気味の悪い声色だったから。

 不安で怖くて仕方がないという負の気持ちと、面白くて楽しくて仕方がないという正の気持ちが、ごちゃ混ぜになったような。そんな不気味な声がここ数日聞こえていた。


 しかも、その声がどんどん大きくなっている。


 真央はすぐに霊媒師に連絡した。自分よりも強く、しかも呪詛返しのスペシャリスト。

 何が原因なのか分からない。しかし、彼ならきっとこの霊現象をどうにかしてくれるだろうと思った。

 思っていた。


『無理よ?』

「は?」


 しかし、返ってきたのは短い拒絶の言葉だった。


「……無理って、どういうことかしら」

『言葉のまんまだけどぉ? それは外せませぇん』

「っ……! 貴方は呪詛返しのスペシャリストでしょうっ? それなのに外せないってどういうことよっ?」

『いやだから、言葉のまんまなんだってばぁ』


 『分かんねぇかなぁ~……?』とため息混じりの面倒くさそうな声に、真央の怒りゲージが少しずつ上昇していく。


『あのねぇ、調月ちゃぁん。俺は人間なのよぉ。人間だから、人間を越える力を持つ特異な化け物にぃ、打ち勝つのは難しいのよぉ』

「何を言っているのか分からないわ。所詮は霊でしょう?」

『そう思うなら自分で呪詛返ししてみろよ』


 冷めた声色で吐き捨てられて、真央は一瞬喉に言葉が詰まった。


『何度も言わせんな。それは俺じゃ外せない(・・・・・・・・・・)。……それだけで分かるだろ。ご愁傷さま』

「じ、じゃあ、他の除霊師に紹介を……」

『しないよ? 死体が増えるだけで完全に無駄だし。何より紹介したら俺が怒られるからやぁだ』


 真央はギリ……ッ、と歯軋りをした。


『諦めて大人しく死んだ方がいいよ? そっちの方がまだ悲惨な死に方しなくて済むし』


 ブツンッ。

 真央は通話を切った。











 真央はすぐに呪詛返しの除霊師(プロ)を探した。

 金は惜しまなかった。そのためか、色んな除霊師がやって来た。

 だというのに。


「どうして誰も呪いを解けないの……っ!!?」


 その全員が、踵を返した。

 真央の話を聞いただけで。もっと酷い時には真央達の姿を見た瞬間に尻餅を着き、這う這うの(てい)で逃げ去っていく。

 しかも、時間が経つにつれて誰も来なくなる。いくら金を積んでも、だ。


 真央は焦りから爪を噛み冷や汗をかいていた。

 もうそれほど時間が残されていない。

 笑い声だけでなく、パタパタと周りを駆ける足音が聞こえていた。

 近づかれている。早く除霊できる人を見つけないと、私の命が――


「姉ちゃん、爪が失くなっちゃうぜ」


 手首を掴まれてぐんと引かれる。目線を上げれば、そこには自身の片割れがいた。


怜央(れお)……」

「どしたの、姉ちゃん」


 「とりあえず汗拭きな?」と怜央はハンドタオルを渡す。そして、彼女の座るソファの隣に腰掛けた。


「……いえ、なんでもないわ。解呪する人が中々見つからないだけよ」

「あー、この笑い声ね」


 最近聞こえてくる子供の笑い声。

 怜央は納得したように頷いた。


「まあ、大丈夫でしょ。もうちょい猶予あるっぽいし、姉ちゃんなら解呪できる人見つけてくれると思うし」

「……。ええ、そうね」


 真央にとって弟は己の半身である。

 双子として産まれ、幼い頃からずっと共にいた。自分と同じように霊感を持ち、お祓いの力を持つ、同じ苦しみや悲しみ、喜びや楽しみを半分こにしてきた、唯一の肉親だ。

 怜央だけは、対価も見返りも関係なく助けたいし、手を差し伸べたい。真央が本心でそう思える大切な人だった。


「だから焦んなくていいよ。姉ちゃんなら大丈夫。俺より賢いからどうにかなるよ」


 怜央は結構楽観的でずぼらなタイプだが、そこが真央にとってありがたかった。自身が理で詰めて細部まで決めていくタイプだから、ほぼ真反対な性格の弟と一緒なら、上手く釣り合いが取れていると思っていた。

 真央は微笑むと、怜央の頭をポンポンと軽く撫でる。






 その彼らの仲睦まじい関係は、霊にとってはどうでもいい。

 壊しがいがあるだけだ。

 次回の投稿は12月22日、月曜日、0:00です。

 よろしくお願いします。

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