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べからずさま  作者: 長月 ざらめ
1章 口紅編
24/38

8話 来週のネタ集め

 第8話、全5回に分けて投稿いたします。

 寒い時期というのは外に出たくないもの。

 この時代、若者が遊ぶならエアコンの入った部屋でゲームをしたり、スマホを(いじ)ったり人が多いだろう。


 しかし、学校ともなればそうともいかない。

 スマホの持ち込みは許可されているが、触っていいのは昼休みだけ。ゲーム機なんて持ってきたら即没収である。慈悲がない。

 そして何より、体育の授業がある。

 基本的に屋内スポーツのバトミントンやバスケにバレーが中心だが、その他持久走などの体力育成のための授業が多いだろう。


 そして、紀伊高校にはこの体育系のイベントがあった。

 ――マラソン大会である。

 距離は42.195キロ。本格的なフルマラソンの距離である。

 紀伊高校のグラウンドをスタート地点として、町中や山の車道を通り、最終的に紀伊高校の校門でフィニッシュとなる。

 走り終えればボランティアの方々が作った美味しいうどんを食べられる、そういうマラソン大会であった。






*****






 第5時限目、体育。

 (うつほ)のクラスでは来週行われるマラソン大会に向けての体力作りを行なっていた。

 準備体操と軽いジョギングを運動場1周分。

 その後、2キロメートルを2チームに分けて走り、タイム測定。


(やしろ) 空、8分31秒!」


 走り終わった空は少し上がった息を落ち着かせようと深呼吸した。

 歩きながら両手を頭を後ろに組む。こうすると肺が広がって空気をたくさん取り込むことができ、回復が早い……らしい。

 持久走ガチ勢の体育教師が言っていた。


「社、お前本当に新聞部なんだよな?」

「え? はい」


 ストップウォッチを持っている体育教師が急に声がかかった。彼は眉を寄せている。

 別に不正はしていない。皆と同じように真剣にコースを走っただけだ。

 何もおかしいことはなかったし、やましいことをしたつもりもない。そして、新聞部所属であることも事実である。

 空は首を傾けたが、すぐに堂々と頷いた。


「文化部所属にしては運動部並みの……というか陸上部と同じようなタイムが出てるんだよな……」

「あー……」


 体育教師の呟きに空は声を漏らす。


 空は除霊師である。

 プロではないしアマチュアでもない、趣味で除霊をしている程度。そして、祖父がプロの除霊師で元極道なだけの16歳だ。

 除霊というのは浄霊と比べてかなりの体力を使う。何せ、除霊対象が一筋縄ではいかないから。

 時には逃げ回り、時には力比べをして、時には相手をメッタメタのぐっちゃぐちゃになるまで殴り続けなければならない。とても大変。非っっ常に疲れるハードなお仕事なのだ。


 と、いうわけで、空は祖父と共に少しばかり鍛えている。

 早朝にランニング。

 昼間は筋力トレーニング、体幹強化に柔軟。

 寝る前にはストレッチ。

 その他、祖父に「覚えておいて損はない」と、合気道と柔道とキックボクシングとムエタイとテコンドーと……と、ある程度の格闘技術も会得している。


 つまり、空は体力(スタミナ)には自信があった。それなりの脚力も持ち合わせているため、一定の速度をキープし続けるのは得意である。

 それ故に陸上部顔負けのタイムを出せたのだ。


 空は体育教師から、もう何度目かも分からない「お前も陸上部に入らないか?」口撃をのらりくらりと躱しながら、今後の予定を脳内で確認していた。






*****






「社ちゃーん! こっちこっち!」


 放課後、空は学校の裏門にいた。

 そこで先輩と待ち合わせをしていたからだ。

 

 空の名を呼び手を振るのは、活発そうな見た目の女子だった。

 普段は流している黒い長髪を1つに結ってポニーテールにしている。前髪はクリップをモチーフにした髪留めで横に留められているため、白い額が晒されていた。

 学校指定の冬の体操服を改造することなく着ている、優等生風の女子高生。


 彼女は禿(かむろ) 符蘭(ふらん)

 空の所属する新聞部の部長である。


 空は小走りで彼女の側に寄っていくと、軽く頭を下げた。


「すいません。待たせてしまいました」

「いーよいーよ。私だってさっき来たとこだし。ささっ! じゃあ、今日はよろしくね! 藤田(ふじた)くん!」

「気乗りはしないけどな」


 符蘭が隣に立つ男子を見上げる。

 彼も冬の体操服を着ていた。

 身長170センチ後半ほどか。黒い短髪と日に焼けた小麦肌をした男子だった。


「2年の藤田 (いつき)だ。陸上部に所属している」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。社 空です。新聞部に所属しています。今日はよろしくお願いします」


 彼が差し出した手を握って、空も自己紹介をする。

 藤田は少し変な顔をした。


「……まともだな」

「はい?」

「いや、同学年の新聞部はどいつもこいつも我が強いヤバいやつしかいないからな」

「ねぇ藤田くん? それ私もディスってるからね??」

「そうだ」

「そうなの!?」

「そうだよ。本当なら今日だって取材なんて受けたくなかったんだ」

「そうなの!?!?」


 符蘭は大袈裟に驚いてみせる。

 藤田は嫌そうな目を符蘭に向けた。


「来るのが比較的マシな禿だったから了承したんだ」

「えー、じゃあなに? 下巣畑(げすばた)くんだったらしなかったの?」

「しない。絶対にしない」

「すごい拒否ってくるじゃん。下巣畑くんかわいそー」

「下巣畑のヤバさは校内トップレベルだろうが。誰があいつが来ると分かって取材を了承するんだ? あいつが何度生徒指導室に呼ばれたと思っているんだ。どうにかしろ部長」

「藤田くん知ってる? 本来なら下巣畑くんが部長だったんだよ?」

「そういうところだぞ新聞部」


 ニッコニコの笑顔で符蘭が言えば、藤田は嫌そうな顔をした。

 一方で、空は首を傾ける。


「……でも、シオリさんってただの部員ですよね? 副部長はアヤメさんですし。どうやって部長、副部長を決めたんですか?」

「良い質問だね社ちゃん! 新聞部の部長、副部長って基本的にそれまで書いてきた記事の面白さで決まるの。つまり、どれだけ書いてきた記事で生徒の心を掴んだかってことで、先輩の間で吟味されて決めるの」

「はぁ」

「だから、記事の面白さ、そして生徒の人気から下巣畑くんがぶっちぎりのトップ! 部長で決まり! ……だったんだけど、流石に記事の過激さのせいで格下げされちゃって……。下巣畑くんが部長になったら廃部が秒読みってことで私が部長、鈴城(すずしろ)ちゃんが副部長になったの」

「なるほど」

「本当にそういうところだぞ新聞部」


 シオリさんってやっぱりヤバい人なんだなぁ、と空は思いながら、符蘭の説明を聞いていた。

 まあ確かに、あの人の記事ってゲスいものが多くて過激であるのは事実。今年もその人が書いた記事により、部活の顧問が1人、警察のお世話になったのだ。

 そして、それを煽るように符蘭も更に記事にしていたのだから、全体的に新聞部は倫理観をどこかで捨てたヤバめの人が多いのかもしれない。


「まあまあ、無駄話はこの辺にしといて……そろそろ出発しちゃお!」

「そうだな」

「フランさん。結局私、詳しい話を聞かされていないままなんですけど。『ジャージ姿で集合してね』ってLINEは受け取りましたが……山に何をしに行くんですか?」

「お参り!」

「……おまいり?」


 符蘭はニッコリと笑う。その笑顔にこれ以上情報を引き出すのは難しいなと思った空は、藤田に目に向けた。

 藤田は手に持っていたビニール袋を持ち上げて見せる。微かに透けて見える中身……その包装や優しい色味から、和菓子であることが察せられた。


「陸上部の伝統でな、毎年マラソン大会の前に、祠にお参りに行くんだ。『今年も山を走らせていただきますので、よろしくお願いします』ってお供え物を備えるためにな」

「なるほど。それで山に……」

「ち・な・み・に! その祠は紀伊高校の七不思議の1つになってま~す!」

「こいつ本当に愉快犯(新聞部)……」

「すいません、うちの部長が」


 頭を抱える藤田に、空は息を吐いた。

 2人の疲弊した様子なんて露知らず、符蘭は元気に腕を突き上げる。


「来週のネタ集めに行きますか! えいえいおー!」


 まあでも、そのイカレ具合が好きなんだよな。

 空は目をキラキラさせている符蘭を眺めながらそう思った。

 次の投稿は9月8日、月曜日、0:00です。

 よろしくお願いします。

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