第九十八話 新たな王と騎士の誓い
アルデンとの戦いから月日が経ち、バストリアは復興を遂げていた。
新たな時代が訪れる中、それぞれの道を歩み始めた者たちがいた——。
バストリアの城下町は、賑わいを取り戻していた。
かつて戦火に包まれた街並みは、職人たちの手によって修復され、活気に満ちている。
行き交う人々の顔には、戦いの影はなく、平和な日々を楽しむ穏やかな笑顔が浮かんでいた。
そして、城の中心——王の間では、新たな時代が幕を開けていた。
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玉座の間。
そこに座るのは、かつて戦場を駆けた男——ヴァルガスだった。
「王ヴァルガス陛下!」
臣下たちが深く頭を下げる。
「……ったく、まだ慣れねえな」
ヴァルガスは渋い顔をしながら、王冠に手をやる。
「似合ってるわよ、陛下」
隣に立つミリアが、微笑みながら言った。
「お前がそう言うなら、そうなんだろうな……」
ヴァルガスは肩をすくめたが、その目は確かに王の威厳を帯びていた。
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「ミリア王妃様、午後の政務の準備が整いました」
側近の報告を受け、ミリアは静かに頷く。
「わかりました。すぐに向かいます」
彼女はもう、かつての屋敷の使用人ではない。
バストリアの王妃として、ヴァルガスとともに国を支えている。
「ミリア……無理すんなよ」
ヴァルガスが気遣うように言うと、ミリアは微笑んだ。
「陛下こそ、ね」
二人の間に、かつてとは違う絆が確かにあった。
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城の訓練場。
ゼノンは剣を握りしめ、黙々と鍛錬を続けていた。
「……もっと強くならなければ」
戦いは終わった。
だが、彼はさらなる強さを求めていた。
「ゼノン様、今日の鍛錬はここまでに……」
騎士団の訓練士が声をかけるが、ゼノンは首を横に振る。
「まだだ。まだ足りない」
剣を振るう。
その姿は、かつての騎士のままではなかった。
「俺は……"本物の強さ"を手に入れる」
その誓いを胸に、ゼノンは再び剣を振るう。
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バストリアから遠く離れた地、リューディス。
かつて無人となった村。
しかし今では、活気を取り戻していた。
新たな住民たちが家を建て、畑を耕し、かつての静寂はもうそこにはない。
行き交う人々の笑顔と、温かな光があふれる村へと変わっていた。
その一角——
薪を割る音が響く。
川のせせらぎとともに、木々の揺れる音が心地よく耳をくすぐる。
家の前には、干された洗濯物が風になびいていた。
そして、その傍らには——
「グルルル……」
大きな影が、優しく尻尾を揺らしていた。
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アルデンとの戦いから月日が経ち、バストリアは新たな時代を迎えていた。
ヴァルガスは王となり、ミリアは王妃として国を支え、ゼノンはさらなる強さを求めて剣を振るう。
一方、遠く離れた地——リューディスでは、新たな生活が静かに息づいていた。
そして、そこには——。




