第七十九話 瞑想と静寂の中で
アレンはヴォイド・リーヴァーの力を制御するため、一時的にリューディスへ戻った。
ユイも同行し、アレンの無防備な状態を支えることとなる。
一方、バストリアではヴァルガスが騎士たちの訓練を開始するが、王城の奥では貴族派が密かに動き出していた——。
リューディスの村は相変わらず静かだった。
バストリアの喧騒とは違い、木々が風にそよぎ、小川のせせらぎが心を落ち着かせる。
昼間でも人影はなく、鳥のさえずりが時折響くのみ。
アレンは村の奥、祠跡へと足を運んだ。
この場所なら、何にも邪魔されずに瞑想に集中できる。
「ここでやるの?」
ユイがアレンの背中から降り、辺りを見回した。
「ああ。この場所なら、誰にも邪魔されないしな」
アレンは深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
「じゃあ、始める」
そう言い、アレンは足を組み、目を閉じた。
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意識を深く沈めていくと、脳裏に黒い霧が広がり始める。
ヴォイド・リーヴァーの力。
それは、ただの身体能力の強化ではなく、何かもっと根源的な"異質なもの"を内包していた。
(俺は……こいつを、本当に制御できるのか?)
アレンの思考に答えるように、霧の中から何かが揺らめいた。
——侵食する。
また、あの声が聞こえた気がした。
「……っ!」
突然、胸の奥が締め付けられるような感覚が走る。
強烈な吐き気とともに、全身の力が抜けた。
(くそ……この力、思ったより……)
アレンの額に汗がにじみ、呼吸が荒くなっていく。
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「アレン……!」
ユイはすぐにアレンのそばに膝をつき、彼の顔を覗き込んだ。
「汗、すごい……!」
アレンの顔色は悪く、まるで高熱を出したように体が震えている。
「ちょっと、無理しすぎじゃないの!?」
ユイは慌ててアレンの汗を拭い、水筒を取り出した。
「ほら、水……飲める?」
アレンはうっすらと目を開け、かすかに頷く。
「……すまん」
ユイはそっと水筒を口元に近づけ、アレンが少しずつ水を飲むのを見守った。
「本当に、こんなことしなくちゃダメなの?」
ユイの声には、どこか不安が滲んでいた。
アレンは深く息を吐き、うっすらと笑みを浮かべる。
「俺が……もっと強くなるために、必要なことなんだ」
ユイは小さく唇を噛んだ。
「でも、無理しすぎるのはダメだからね。ちゃんと、休みながらやるんだよ」
アレンは静かに頷いた。
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一方、バストリア城では、ヴァルガスが騎士たちの訓練を続けていた。
「もっと腰を落とせ! 足元を固めないと簡単に崩されるぞ!」
騎士たちは必死に剣を振るいながら、ヴァルガスの指導を受けていた。
「くそっ……ヴァルガス殿、これではまるで、実戦のような……!」
「実戦だからな」
ヴァルガスは淡々と言い放ち、騎士の剣を簡単に受け流した。
「お前たちは、型にはまった動きばかりしてる。そんなもん、実戦じゃ通用しねぇよ」
ゼノンもその様子を見守っていたが、ヴァルガスの指導に一目置いていた。
「確かに、ヴァルガスの言う通りだ。今のままでは、戦場では生き残れん」
ヴァルガスは剣を構え直し、騎士たちを見回した。
「いいか、お前ら……次に実戦になったとき、"俺がいたから助かった"じゃなくて、"俺なしでも勝てる"って言わせるくらいになれ」
その言葉に、騎士たちの表情が引き締まる。
「はい!」
城の訓練場には、ひたすら剣が交わる音が響いていた。
しかし、その裏では——
「……そろそろ、仕掛けるか」
城の奥で、貴族派の密談が進んでいた。
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アレンはリューディスでの瞑想を始めたが、ヴォイド・リーヴァーの力を制御するのは容易ではなかった。
ユイはそんなアレンを支え、彼の回復を見守る。
一方、バストリア城ではヴァルガスが騎士たちの訓練を開始し、ゼノンも彼を認め始める。
だが、そんな中、貴族派の陰謀が静かに動き始めていた——。




