第七十八話 瞑想のための帰還
アレンは、ヴォイド・リーヴァーの力を喰らい、新たな力を得た。
しかし、それは想像以上に強大で、制御するには時間が必要だった。
バストリアの朝は早い。
王城の塔から見下ろせば、城下町はすでに活気を見せ始め、商人たちが行き交い、市場には新鮮な食材が並んでいた。
そんな城の一角、広間に集まったアレンたちは、今後の動きについて話していた。
「アレン、お前……本当に大丈夫なのか?」
ヴァルガスが腕を組みながら、鋭い視線を向ける。
「……正直に言えば、自信がない」
アレンはゆっくりと答えた。
「喰ったことで力は得たが、それを完全にコントロールできているとは言えない。このままじゃ、戦闘中に暴走しかねない……だから、一度リューディスへ戻りたい。瞑想をしてみる。」
「瞑想?」
ユイが首を傾げた。
「ああ。この力は、単なる身体能力の強化じゃない。無理に使おうとすれば、自分自身がどうなるか分からないんだ」
アレンの拳はわずかに震えていた。
「だから、制御するための時間が必要だ」
「アレン、なら私も一緒に行く」
ユイが静かに言った。
「え?」
「だって、アレンが瞑想してる間、無防備になるんでしょ? それなら、私が一緒にいたほうがいい」
ユイはきっぱりとした口調で言った。
「でも……」
「行く!」
ユイは強く言い切った。
「わかった……頼む」
アレンは苦笑しながら頷いた。
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そして、ヴァルガス、ミリア、フェンは王城に残ることになった。
「城の騎士たちの修行をつけてほしい。王国兵だけでは不安要素が多い」
王の頼みだった。
ヴァルガスは不満げに肩をすくめた。
「へぇ……騎士様たちを鍛えろってか? ま、アレンほどじゃねぇが、少しはマシな動きができるようにしてやるよ」
「よろしく頼む」
王が深く頷く。
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王城の門を出たアレンとユイは、まっすぐにリューディスの村を目指していた。
「しっかり捕まれよ」
「……またこれ」
相変わらずユイはロープでアレンの背中に固定され、疾走するアレンの振動に必死に耐えていた。
「いつも思うけど、私これ荷物扱いだよね……?」
「文句言うな、この方が早い」
二人のやり取りはいつものように続きながらも、アレンの足は決して止まることなく、バストリアからリューディスへの道をひた走る。
バストリアに来るときは一日以上かかった道のりも、アレン一人なら半日で到着できた。
「……着いたな」
リューディスの村は、変わらず静かだった。
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アレンは村の奥にある、かつての祠跡に向かった。
「ここなら邪魔は入らないだろう」
石造りの床に座り込み、静かに目を閉じる。
ゆっくりと呼吸を整え、意識を集中させていく。
だが——
「……っ」
次の瞬間、アレンの体がビクンと震えた。
頭の中に、黒い霧のようなものが広がっていく。
「く……」
額に汗が滲み、呼吸が乱れる。
「アレン、大丈夫……?」
ユイが心配そうに近づき、そっと額の汗を拭った。
「ありがとう……」
「無理しないで」
「無理しなきゃ意味がない……制御するためには、この力と向き合わなきゃならないんだ」
アレンは苦悶の表情を浮かべながら、なおも意識を研ぎ澄ましていく。
ーー
一方、バストリア城では、ヴァルガスが騎士たちを集めていた。
「お前ら、本気で強くなりてぇなら、まず戦い方を変えろ」
「しかし、私たちは王国騎士……剣技こそが……」
「だからダメなんだよ」
ヴァルガスはニヤリと笑い、剣を構えた。
「俺が手本を見せてやる。来い」
騎士たちは躊躇いながらもヴァルガスに挑みかかるが——
「遅い!」
ヴァルガスは軽く身をかわし、相手の剣を弾き飛ばした。
「剣だけに頼るな、身体の動きも工夫しろ!」
次々と騎士たちを圧倒していくヴァルガスに、ミリアがそっと微笑む。
「ヴァルガス、いい先生になってるわね」
「俺はそんな器用じゃねぇよ。でも、こいつらには教えなきゃならねぇんだ」
ヴァルガスは剣を構え直し、さらに訓練を続けていく。
だが、そんな中——
王城の奥で、何者かの密談が行われていた。
「……そろそろ、動く時が来たな」
「ゼノンすら負けた今、王に従う理由はない。我々の手で、この国を正しい形に戻す」
貴族派の暗躍が、静かに進行していた——。
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アレンはヴォイド・リーヴァーの力を制御するため、一時的にリューディスへと帰還した。
ユイと共に瞑想に入るが、その力は簡単に制御できるものではなかった。
一方、バストリアではヴァルガスが騎士たちを鍛え上げ、ミリアも彼を支える。
しかし、そんな中、貴族派の陰謀が動き出す——。




