第七十一話 リューディス
アレンとヴァルガスはバストリアを脱出し、ヴァルガスが封印されていた村へと戻った。
そこで待っていたのは、仲間との再会。
夜の村に足を踏み入れると、静寂の中にかすかな焚火の灯りが揺らめいていた。
ヴァルガスは深く息をつき、辺りを見回す。
「……本当に住めるようにしているんだな」
彼の言葉に、アレンは無言で頷くと、村の中心へと進んでいった。
すると、家の扉がそっと開き、ミリアが顔を覗かせた。
「アレン……? 戻ってきたのね」
その声を聞いたユイも、すぐに駆け寄る。
「アレン! 無事だったんだね!」
「まあな」
短く返すアレンの肩越しに、ヴァルガスの姿が見えた。
ユイは興味津々といった様子で彼を見つめる。
「この人は……?」
ミリアも驚きながらヴァルガスを見上げる。
「ヴァルガスだ。俺の知り合いで、この村のことをよく知っている」
ミリアは少し考え込むように彼を見つめた後、静かに言った。
「……初めまして」
「お前がミリアか」
ヴァルガスは彼女をじっくりと観察し、特に感情を表に出さずに言った。
ミリアは少し警戒するような表情を見せたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。
「お疲れでしょう。まずは休んでください」
「助かる」
ヴァルガスは軽く頷き、広場の焚火のそばに腰を下ろした。
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ヴァルガスが水を飲みながら体を休めていると、どこからか足音が近づいてきた。
「……ん?」
彼が顔を上げると、そこには巨大な影があった。
「グルル……」
黄金の瞳が揺らめき、黒い毛並みが夜の闇に溶け込んでいる。
「……まさか、こいつが……デュランス・ウルフか?」
「フェンだよ!」
ユイが嬉しそうに答える。
「お前……デュランス・ウルフに名前をつけたのか」
ヴァルガスは信じられないというように眉を上げた。
「まあ、そういうことになった」
アレンが静かに言うと、ヴァルガスはフェンをじっと見つめた。
「……本当に、大人しくしているのか?」
「大丈夫だよ!」
ユイが自信満々に言う。
「フェンはいい子だもん!」
「グルル……」
フェンは低く喉を鳴らしながら、ヴァルガスの匂いを嗅ぐように鼻を寄せた。
「……まあ、今のところ襲ってはこねぇな」
ヴァルガスは警戒しつつも、フェンの姿をしっかりと観察していた。
「しかし、すげぇな。まさか、こんな化け物と共存するとは思わなかった」
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ヴァルガスは村の広場に座り、焚火の炎をじっと見つめながら呟いた。
「……そういや、お前ら、この村の名前を知ってるのか?」
アレンとユイ、ミリアは顔を見合わせる。
「いいえ。廃村だったということしか……」
ミリアが答えると、ヴァルガスは微かに笑った。
「そうだろうな。俺が封印された後は、ただの『忘れられた村』だったろう」
彼は火を見つめながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「だが、この村には元々名前があった。『リューディス』……それが、この村の名だ」
「リューディス……」
ユイがその名を繰り返す。
「それって、どういう意味?」
「昔の言葉で『静かなる大地』って意味だ」
ヴァルガスは懐かしそうに言った。
「今はもう、その名を知る者も少ねぇがな」
「リューディス……」
アレンはその名を胸に刻むように呟いた。
「ここがただの廃村じゃなくて、そういう名を持っていたってのは悪くないな」
ヴァルガスは小さく頷き、炎をじっと見つめ続けた。
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ヴァルガスは村に到着し、ユイやミリアと対面。
そして、デュランス・ウルフのフェンとの驚きの対面を果たした。
さらに、この村の本当の名前「リューディス」が明かされた。
新たな物語が、この村から始まる——。




