第七十話 旅路の果てに
アレンはバストリアでヴァルガスの処刑を阻止し、彼を救い出した。
しかし、戦いの余韻が残る中、アルデンが黒い霧へと変異し、姿を消した。
夜のバストリア。
処刑場での激闘の余韻がまだ街の空気に残る中、アレンはヴァルガスを担ぎ、街を駆け抜けていた。
ヴァルガスは黙っていたが、表情にはまだ驚きが残っていた。
処刑台で見たアレンの戦い——
それは、彼の知っていたアレンとはまるで別人だった。
(あれほどまでに……強くなっていたとはな)
アルデンという存在を押し切ったあの力。
そして、最後に目にした異形の変異。
ヴァルガスは、胸の奥に言いようのない感覚を抱きながら、アレンの背中を見つめた。
「……助かった」
ようやく口を開いたヴァルガスの声には、深い感謝が滲んでいた。
「礼なら村に着いてからでいい」
アレンは無駄な言葉を交わさず、警戒を続けながら歩みを進める。
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「どうやって街を抜けるつもりだ?」
ヴァルガスが尋ねると、アレンは迷いなく答えた。
「壁を越える」
「……おい、それは冗談じゃないよな?」
ヴァルガスが苦笑するが、アレンはすでに壁際へと向かっていた。
城壁の影に身を潜め、気配を殺す。
次の瞬間、ヴァルガスを背負ったまま地を蹴る。
「なっ……!?」
ヴァルガスの驚きの声を背に、アレンは一瞬で城壁の上に到達。
そのまま反対側へと降りた。
「……もう驚かねぇ方がいいのかもしれねぇな」
ヴァルガスは呆れたように言ったが、すぐに笑みを浮かべた。
アレンは無言で頷き、森へと足を向けた。
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森を進む中、ヴァルガスが静かに口を開いた。
「ところで、お前……今どこで暮らしてる?」
アレンは無言で歩き続け、やがて静かに答えた。
「……お前が封印されていた村だ」
「……なんだと?」
ヴァルガスは目を丸くした。
「あそこは廃村だったはずだろう」
「ああ、最初はな。しかし、今は違う」
「一人で住んでるのか?」
「いや、俺と、ユイ、ミリア……それとデュランス・ウルフがいる」
「……デュランス・ウルフ?」
ヴァルガスの顔に驚きが浮かぶ。
「そういう流れになった。今は大人しくしている」
アレンの淡々とした言葉に、ヴァルガスは複雑な表情を浮かべた。
「……あの村で、そんな生活ができるとはな」
彼の声には、懐かしさと驚きが入り混じっていた。
「……ユイとミリアってのは?」
ヴァルガスが問いかける。
「ユイは、ある場所で出会った少女だ。ミリアは貴族の屋敷で使用人をしていた」
アレンの答えを聞き、ヴァルガスは少し考え込む。
「……そうか」
ヴァルガスはユイとミリアのことは知らない。
だが、アレンがミリアを救出したことで、自分が捕らえられたことは理解している。
「……まあ、結果的にこうして生き延びたんだ。恨みはねぇよ」
ヴァルガスは淡々と言いながら、肩をすくめた。
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二人は森を抜け、ようやく村の近くへとたどり着いた。
「……本当に、あの村が?」
ヴァルガスが目を凝らして、暗闇の中に見える建物を見つめる。
遠くにかすかに光が灯っているのが見えた。
「お前が実際に確かめればいい」
アレンは静かに言いながら、村へと向かって歩き始めた。
夜の静寂に包まれた村が、二人を迎えようとしていた——。
ヴァルガスを救い出し、村へと戻ってきたアレン。
ヴァルガスは、自分が封印されていた村でアレンが生活していることに驚きを隠せない。