第七話:異変とさらなる狩り
ウサギを食べたことで、俺の体にわずかな異変が起こった。
これは単なる疲れによるものなのか、それとも――。
生きるためには、さらなる食料を確保しなければならない。
狩りを続けながら、異変の正体を探る。
体の感覚が少し違う。
ウサギを食べた直後から、なぜか体が軽く感じるようになった。
「気のせい……か?」
気のせいで片づけてしまえば、それで終わる話だ。
だが、ここは異世界。
何があっても不思議ではない。
「……まあ、いい。とにかく、次の獲物を探さないと」
食べ物がなければ話にならない。
とにかく、さらなる狩りをする必要がある。
俺は槍を握りしめ、森の奥へと足を踏み入れた。
木々が生い茂る静かな森の中、慎重に足を運ぶ。
空腹は満たされたとはいえ、たった一匹のウサギでは心許ない。
しばらく食料を確保できるように、もう少し大きな獲物を狙いたい。
「とはいえ、何を狩ればいいんだ……?」
この森にどんな動物がいるのか、まだ分かっていない。
この世界に普通の鹿やイノシシがいるとは限らない。
もしかすると、異世界ならではのモンスターがいる可能性もある。
慎重に進んでいくと、土の上に何かの足跡を見つけた。
三本指の細長い跡。
まるで鳥のようだが、サイズがやたらと大きい。
「……なんだ、これ」
ウサギとは比べものにならない大きさの足跡。
もしかすると、捕まえられれば相当な食料になりそうだ。
俺は慎重に足跡を辿りながら進む。
少し先に進むと、草むらが大きく踏みつけられたような跡があった。
何かがここを通ったばかりなのかもしれない。
息を殺しながら、慎重に様子を伺う。
草むらの奥に、何かがいる。
「……あれは……?」
茂みの向こうに、青黒い羽毛を持つ鳥のような生き物がいた。
見た目はダチョウに近いが、首が短く、全身が分厚い羽毛に覆われている。
足は太く、鋭い爪がついていた。
「……こいつ、強そうだな」
ウサギとは違い、反撃される可能性が高い。
だが、あの大きさなら、仕留めればしばらくは食料に困らない。
問題は、どうやって倒すかだ。
槍を構え、じっと相手の動きを観察する。
大きな鳥は、地面をつつきながら何かを食べているようだった。
警戒心はあまり強くないのか、こちらに気づいていない。
「……今だ」
俺はそっと姿勢を低くし、鳥の背後に回り込んだ。
狙うべきは――首。
ダチョウ系の生物なら、急所はそこにあるはずだ。
ゆっくりと距離を詰める。
あと少し……。
「……っ!」
バキッ
枯れ枝を踏んでしまった。
鳥が鋭く顔を上げ、俺の方を向く。
その目が、一瞬で獲物を狙う肉食獣のように変わった。
「やばい――!」
俺が槍を突き出す前に、鳥が飛びかかってきた。
予想以上に速い。
間一髪で飛びのきながら、槍を振るう。
だが、刃先は羽毛に弾かれ、大したダメージを与えられない。
「ちくしょう、こいつ、思ったよりも硬い!」
鳥は低い姿勢で走り回り、隙を伺っている。
下手に攻撃すれば、逆に反撃を受けるかもしれない。
「……落ち着け」
俺は呼吸を整え、敵の動きを観察する。
――こいつは、突進してくる。
それなら、その勢いを利用すれば……。
俺は地面に足を踏ん張り、槍を構えた。
鳥が再び突進してくるのを待つ。
「……こい!」
鳥が一直線に向かってきた瞬間、俺は槍を低く構えたまま、直前で横に跳ぶ。
その瞬間、槍の穂先が鳥の脇腹に突き刺さる。
「ぐぉぉっ!」
鳥が苦しげに鳴き、バタバタと暴れる。
しかし、槍は深く刺さっている。
もがけばもがくほど、傷が広がる。
「……よし!」
俺はそのまま槍を強く押し込み、さらに深く突き立てた。
数秒後、大きな鳥はついに動かなくなった。
「……はぁ、はぁ……」
全身が汗でびっしょりだ。
だが、なんとか仕留めた。
「……これで、しばらくは食い扶持には困らないな」
俺は槍を引き抜き、大きな鳥を地面に転がす。
これを解体するのは、ウサギよりもずっと大変そうだ。
それでも、俺はやるしかない。
食うために。
そして、また少しずつ、この世界に順応していくために。
新たな獲物を仕留めたアレン。
食糧問題は少し解決したが、異世界の生物は決して侮れない。
次回は、大型獲物の解体に挑む。
お楽しみに!