第六十九話 砕ける剣、消えゆく影
アレンの猛攻により、アルデンとの戦いは最終局面を迎えた。
王国最強の剣士と、完全獣化した戦士。
剣と獣、そのどちらが頂点に立つのか——。
アルデンの剣が閃く。
アレンは反射的に腕を振り、鋭い爪で迎え撃つ。
「ガキィン!!!」
剣と爪がぶつかり合い、衝撃が走る。
処刑場の床がひび割れ、風が巻き起こる。
しかし、アレンの顔には余裕があった。
「もう、その剣は俺には届かねぇよ」
地を蹴る。
「ドォン!!!」
爆発的な加速でアルデンへと迫る。
アルデンは冷静に剣を構え直し、迎え撃つが——
「遅い!!!」
アレンの爪が、空を裂く。
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「ガアアアアア!!!」
右腕を振り下ろす。
「ギィン!!!」
剣がそれを受け止める。
しかし、次の瞬間には——
「ドゴォン!!!」
左の拳が、アルデンの肩口へと叩き込まれる。
「……ッ!」
アルデンが後退する。
しかし、アレンは止まらない。
「ハァアアアアッ!!!」
「ガギン!!!」
「ドゴォン!!!」
跳躍からの蹴撃、振り下ろされる爪撃、全方向から繰り出される猛攻。
「チッ……!」
アルデンの剣が迎撃を試みるが、その速さに追いつかない。
「グッ……!」
鋭い爪がアルデンの剣を弾き飛ばし、ついにその身へと迫る。
「終わりだ!!!」
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「ドスッ!!!」
アレンの腕が、アルデンの腹を貫いた。
「……ッ!」
アルデンの目が揺れる。
血が吹き出し、その場に膝をつく。
「……これで、終わりか?」
アレンは腕を引き抜きながら低く呟く。
だが——
「……そう、思うか?」
アルデンの声が響く。
次の瞬間、彼の体から黒い霧が噴き出した。
「何だ……?」
アレンは直感的に後退する。
アルデンの輪郭が揺らぎ、その形が変化していく。
「……ッ!!」
黒い霧が収束し、異形の獣のような姿へと変わっていく。
その体は半透明の闇、輪郭は不安定で、まるで実体を持たぬ影のごとき存在——。
「これは……」
アレンの目に、かつて見たことのない"何か"が映る。
その瞬間、アレンの獣の本能が警鐘を鳴らした。
「危険な存在だ……!」
しかし、アレンが次の動きを取るよりも先に——
アルデンは"それ"へと姿を変え、霧となって消えた。
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沈黙が訪れる。
「……」
遠くの建物の影で、ヴァルガスがその様子を見ていた。
「……あれは」
震える声で、彼は呟く。
「ヴォイド……リーヴァー……」
彼の目には、ただ純粋な恐怖が宿っていた。
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アルデンを圧倒し、ついに決着をつけたアレン。
しかし、アルデンは黒い霧に包まれた異形の魔物へと変化し、最終的に霧となって消えた。
そして、それを見たヴァルガスが呟く。
「あれはヴォイド・リーヴァー……」