第六十八話 目覚める力
アルデンの剣技に圧倒され、アレンは追い詰められていた。
これまで戦ったどの相手とも違う戦い方に戸惑いながらも、彼は諦めなかった。
しかし、圧倒的な実力差の前に、ついに限界が迫る——。
剣が、空を裂く。
「ぐっ……!」
アレンは身を翻し、なんとか刃を避ける。
しかし、その動きすらも見切っていたかのように、アルデンの剣が追撃を放つ。
「ドスッ!」
脇腹をかすめる鋭い痛み。
「チッ……!」
アレンは咄嗟に距離を取るが、体勢が崩れた。
それを逃すはずもなく、アルデンが一歩踏み込む。
「——終わりだ」
淡々とした声が響く。
刹那、剣が振り下ろされた。
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死の間際、
アレンの体が本能的に警鐘を鳴らす。
「このままじゃ……殺される……!」
全身の筋肉が硬直し、動きを強張らせる。
だが、冷静に考える時間などない。
剣が迫る。
「……っ!」
アレンは右腕を前に出し、防御を試みる。
「ギィィン!!」
獣化した右腕と、アルデンの剣がぶつかり合う。
衝撃が全身を襲い、膝が砕けそうになる。
「くそっ……!!」
全身が悲鳴を上げる。
血が噴き出し、視界が揺れる。
だが、倒れるわけにはいかない。
アレンは奥歯を噛みしめた。
「……まだ……だ……!」
その瞬間、彼の中で何かが弾けた。
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「——!!」
アレンの全身が燃えるように熱を帯びる。
脈打つ音が耳の奥で響く。
体の内側から、何かが突き破ろうとしていた。
「こいつは……」
それは、バロッグ・タイラントの心臓を喰った時から眠っていた力。
今までは右腕にだけ現れていた獣化が——
「う……ぐあああっ!!!」
全身へと広がる。
肉が引き裂かれ、骨格が変異する。
皮膚が黒く染まり、背筋に走る違和感とともに、背中から鋭い棘のような突起が浮かび上がる。
爪がさらに長く、鋭くなり、牙がむき出しになる。
「……ッ!!」
その場にいた貴族たちが悲鳴を上げる。
「な、なんだ……!?」
「完全に化け物じゃないか……!!」
アルデンですら、目を細める。
「……これは」
彼が初めて感じた"未知の力"。
アレンがゆっくりと顔を上げた。
赤黒い光を帯びた瞳が、アルデンを捉える。
「——ここからが本番だ」
‐‐‐
「ドォンッ!!!」
アレンが地を蹴った瞬間、石畳が砕けた。
空気が震える。
「速い……!」
アルデンの目の前に、もうアレンがいた。
「——!!」
鋭い爪が、風を切る。
「ガギィン!!」
アルデンの剣が迎え撃つ。
しかし、今までとは違った。
「グ……ッ!!」
アルデンが、わずかに後退する。
初めて、アレンの一撃が"押し返した"。
「……なるほど」
アルデンの剣が再び振るわれる。
だが——
「遅い」
アレンが、すでに動いていた。
「ドスッ!!」
鋭い爪がアルデンの肩をかすめる。
「……ッ!!」
血が舞う。
「……初めて、俺に傷をつけたな」
アルデンが静かに呟く。
しかし、その目は冷静なままだった。
「だが、それで俺を倒せると思うな」
アレンは微かに笑った。
「そんな簡単に終わらせるつもりはねぇよ」
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二人の戦士が再び向かい合う。
一方は、王国最強の騎士。
一方は、喰らうことで進化する獣。
戦場は沈黙に包まれる。
どちらが勝つのか。
それは、この一瞬にかかっていた。
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バロッグ・タイラントの心臓を喰ったことで、アレンは完全な獣化を果たす。
その力は、アルデンをも驚かせ、ついに初めての一撃を与えた。
だが、戦いはまだ終わらない。
この戦いの行方は——。