第六十七話 追い詰められる者
剣が閃き、獣の爪が交差する。
だが、これまで戦ってきたどの相手とも違う——。
動きが読めない、攻撃が通じない。
アレンの中で、これまでにない戸惑いが生まれる。
アルデンの剣が、空を裂いた。
「——ッ!」
アレンは即座に身を翻し、その一撃を避ける。
剣の軌道は極めて正確。
わずかでも遅れていたら、首が飛んでいたかもしれない。
地面を蹴り、間合いを取る。
「……ヤバいな」
獣化した右腕を握りしめながら、アレンはアルデンを見据えた。
彼の剣は無駄な動きが一切ない。
ただ静かに振るわれるだけで、そこには"完成された技"がある。
これまで戦ってきたモンスターたちとはまるで違う。
本能に任せた力任せの攻撃ではない。
すべての動きに計算があり、精密な技術によって形作られている。
「……これまでの戦い方じゃ、通じねぇ……」
アレンは初めて、"対人"の戦闘に対する適応が必要であることを痛感した。
アルデンは一歩踏み込む。
その足音が響くたび、処刑場の貴族たちが息を呑む。
「どうした。さっきの勢いはもう終わりか」
低く、淡々とした声。
まるで、これが"決まりきった結末"であるかのように——。
アレンは歯を食いしばった。
「そんなわけ……あるかよ!!」
再び、右腕を振りかぶり、突進する。
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アレンの爪が振るわれる。
「ガギィンッ!」
だが、アルデンの剣がそれを正確に弾いた。
そのまま流れるように剣を返し、アレンの腹部を狙う。
「チッ!」
アレンは体を捻り、間一髪でかわす。
そのまま跳躍し、上空から拳を叩き込む——が。
「無駄だ」
アルデンの剣が、すでにそこにあった。
「ガキィン!!」
強烈な衝撃が走る。
アレンの腕に鈍い痛みが走った。
「——ぐっ!!」
弾き飛ばされるように、屋根の上に着地する。
それと同時に、アルデンが間合いを詰めていた。
「遅い」
剣が閃く。
「ドスッ!!」
アレンの脇腹をかすめる。
刹那、鮮血が空を舞った。
「が……っ!!」
激痛が走る。
アルデンはそのまま追撃の構えを見せる。
「まだ、終わらないぞ」
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アレンは傷口を押さえながら、呼吸を整えた。
脇腹から流れる血が、衣服を染めていく。
「……はぁ……はぁ……」
明らかに、戦況は悪化している。
アルデンの剣は、一切の無駄がない。
攻撃のたびに、確実にアレンの身体を削り取っていた。
「……このままじゃ……やられる……」
その考えが脳裏をよぎる。
だが——
「チィッ……!」
アレンは舌打ちをし、傷を意識から消し去る。
「まだ、倒れるわけにはいかねぇ……!」
獣化した右腕が脈動する。
再生能力が、じわじわと傷を塞ぎ始める。
その光景を見ていたアルデンが、初めて表情を変えた。
「……そうか」
剣を軽く振り、血を払いながら、静かに言う。
「それがお前の力か」
その声音は、わずかに驚きを孕んでいた。
「再生能力……か」
アレンは息を整えながら、構えを取る。
「……時間稼ぎはできるってことだな」
だが、アルデンはその言葉に微かに首を振った。
「いや、そうではない」
再び、剣が構えられる。
「ただの回復では、俺には勝てん」
その瞬間、空気が変わった。
アルデンの姿が、消えた——。
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アレンが反応する前に、背後から殺気が走る。
「——ッ!!」
振り向く暇もない。
「ガギィン!!!」
刃が迫る。
咄嗟に右腕を前に出し、剣を防ぐ。
だが、衝撃が異常だった。
「ぐ……っ!」
そのまま吹き飛ばされ、屋根の上を転がる。
背中を強打しながらも、なんとか体勢を立て直す。
だが、アルデンはすでに次の一撃を放とうとしていた。
「……ここまでか」
アレンは奥歯を噛みしめる。
体力の差——いや、技量の差が圧倒的だった。
このまま戦い続けても、結果は見えている。
「……どうする?」
息を整えながら、次の策を模索する。
しかし、アルデンはそれを許さなかった。
「次で終わる」
一歩、踏み込む。
アレンは構える。
だが、明らかに不利な状況。
「——くそ……!」
絶体絶命。
戦いの行方は——。
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アルデンの圧倒的な剣技により、アレンは追い詰められる。
再生能力で傷を塞ぐも、それだけでは勝負にならない。
果たして、アレンに打開策はあるのか——。