第六話:初めての解体と生食
ようやく仕留めた獲物。
しかし、このままでは食べられない。
解体し、調理しなければならないが、当然やったことなどない。
俺の異世界での初めての食事が、ここから始まる。
「さて……どうするか」
目の前には、槍で仕留めたばかりのウサギが横たわっている。
動かないとはいえ、今まで生きていた命だ。
なんとなく、直視するのがためらわれる。
だが、ためらっている場合ではない。
ここで食べなければ、俺は生きていけない。
「まず、解体だよな……」
知識がないわけではない。
昔、サバイバル番組や狩猟の動画を見たことがある。
だが、それを実際に自分の手でやるとなると話は別だ。
「道具は……槍じゃ無理か」
槍は狩猟用に作ったものであり、刃物のように鋭利ではない。
となれば、石器を作るしかないか。
俺は適当な石を拾い、別の石で叩いて割る。
狙い通り、鋭い破片ができた。
素手で持つと切れそうなほど鋭い。
「これなら……いけるか?」
俺はウサギの毛皮を剥ぐために、腹部の皮にそっと刃を当てる。
深く切りすぎると内臓を傷つけてしまうので、慎重に。
ザリッ
「……!」
想像していたよりも、ずっと生々しい感触が指先に伝わる。
皮は意外と固く、簡単には剥がれない。
だが、気持ち悪がっていては話にならない。
俺は息を整え、慎重に石器を滑らせる。
じょり……
力加減を調整しながら、ゆっくりと皮を剥いでいく。
次第に、肉の部分が露わになってきた。
「……なんとか、いけそうだな」
内臓を傷つけないように注意しながら腹を開き、
中の臓器を取り出していく。
血の匂いが強くなり、鼻をつく。
だが、思ったほどの嫌悪感はない。
「これも、生きるためだ……」
全ての臓器を取り除き、ようやく解体が完了した。
「ふぅ……やっとここまできたか」
次は、肉を食べるための準備だ。
「焼くしかないよな……」
だが、火がない。
このままでは生食になってしまうが、
それはさすがにリスクが高い。
「火起こしを試すしかないか……」
俺は乾燥した木の枝を探し、適当な木片と擦り合わせてみる。
昔見たサバイバル番組では、こうやって火を起こしていた。
「よし、やるぞ……!」
木の枝を両手で持ち、ひたすら擦る。
摩擦熱が発生すれば、火種ができるはずだ。
しかし――。
「……全然、つかねえ……!」
何度やっても煙すら立たない。
力を込めれば込めるほど、手が痛くなり、汗が滴る。
「……こんなの、簡単にできるもんじゃねぇな」
しばらく試行錯誤してみるが、結局火を起こすことはできなかった。
「……仕方ない」
俺は覚悟を決め、ウサギの肉を直接口に入れた。
生の肉。
噛むと、じわりと血の味が口に広がる。
「……っ」
決して美味いものではない。
生臭さと鉄の味が混ざり、舌にまとわりつく。
それでも、腹を満たすために食べるしかない。
慎重に咀嚼し、胃へと流し込む。
「……大丈夫か?」
吐き気はない。
だが、なんとも言えない感覚が胃の奥に広がる。
「……なんだ?」
身体が少し熱くなる。
それだけでなく、全身にじんわりとした感覚が広がる。
「……なんか、力が湧いてくるような……?」
筋肉がわずかに膨張するような、違和感。
視界が少しクリアになった気もする。
とはいえ、それほど大きな変化ではない。
俺はしばらくじっとして、自分の体を観察する。
「……気のせいか?」
異世界に来た時には感じなかった、この世界の”違和感”が、俺の身体に刻まれつつある。
これは単なる栄養補給か、それとも何か別の力なのか。
まだ、答えはわからない。
「……とにかく、これで少しは動けるな」
俺は再び槍を手に取り、森の中を見渡す。
――生き延びるために。
ついにウサギを食べたアレン。
しかし、彼の身体にわずかな異変が起こる。
これは一体……?
次回へ続く――!