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第五十三話 フェン

アレンたちは廃村での生活を続けながら、少しずつ環境を整えていた。

そんな中、ユイの一言で新たな出来事が始まる。

アレンは慎重になりながらも、その選択を受け入れることになるのだった。


教会の中、焚き火の明かりがゆらめいていた。


ユイはそっと傷ついたデュランス・ウルフの体を撫でる。

毛並みは傷と汚れでごわついており、所々、血がにじんでいた。


「大丈夫……もう怖くないからね」


ユイが優しく囁きながら、用意した水を布に含ませる。

それをウルフの体に当て、丁寧に汚れを拭い落とす。


ウルフは最初、身を強張らせていたが、

ユイの手つきが優しいと分かると、徐々に力を抜いていった。


「汚れが落ちると、毛並みが綺麗になるね」


ミリアが感心したように言う。


「本当にこの子、魔獣なのね……」


「うん。でも、まだ小さいから、私たちを襲うことはないと思う」


ユイはそう言いながら、焚き火のそばに置いていた肉を取り出した。

アレンが狩った獣の肉を小さく裂き、手のひらに乗せる。


「食べる?」


ウルフはじっとユイの手を見つめた。


最初は警戒しているようだったが、やがて鼻をくんくんと動かし、

ゆっくりと顔を近づけ、肉をぱくりと口に含んだ。


「よかった……ちゃんと食べられるね」


ユイが安心したように微笑む。


アレンはそんなユイの様子を見ながら、腕を組んだ。


「……本当に、懐くのか?」


「たぶん、大丈夫だよ。今はきっと不安なだけ」


ユイはそう言って、そっとウルフの頭を撫でる。

最初は身をすくめていたが、やがて気持ちよさそうに目を細めた。


「うん、安心したみたい」


ミリアが静かに微笑む。


その夜、ウルフはユイの足元で丸くなり、穏やかに眠りについた。


---


次の日、朝日が差し込む教会の中で、ユイは目を覚ました。


「……ん?」


足元に温もりを感じ、視線を落とすと、

そこにはウルフが丸くなって寝ていた。


「ふふ、おはよう」


ユイが小さく声をかけると、ウルフはぴくりと耳を動かし、

ゆっくりと目を開いた。


すると、ユイの顔を見るなり、嬉しそうに尻尾を振る。


「えっ、もう懐いたの?」


ミリアが驚いたように言う。


「うん、なんだかそんな感じ!」


ユイはそっと手を伸ばし、ウルフの頭を撫でた。

すると、ウルフは気持ちよさそうに目を細め、

甘えるようにユイの手に顔を寄せる。


「本当に人懐っこいのね……」


アレンはそれを見ながら、少し複雑な表情を浮かべた。


「昨日まであんなに警戒してたのに、随分と態度が違うな」


「きっと、お腹いっぱい食べて、安心できたんだよ」


ユイは嬉しそうに笑いながら、

ウルフの頬を優しく撫でた。


「ねえ、名前をつけてもいいかな?」


ユイの言葉に、アレンは少し驚いたように眉を上げた。


「名前か……」


「このまま一緒にいるなら、名前があったほうがいいと思うの」


ユイはウルフの頭を撫でながら、考え込む。


「うーん……この子、ふわふわの毛並みが綺麗だから……」


少し考えた後、ユイはぱっと顔を上げた。


「フェン!」


「……フェン?」


アレンが少し呆れたように聞き返すと、

ユイは笑いながら頷いた。


「うん! なんとなく!」


ミリアがくすっと笑う。


「でも、なんだか似合ってるかも」


ユイが「フェン」と呼ぶと、

ウルフは小さく鳴きながら、尻尾を振った。


「ほら、気に入ってくれたみたい!」


ユイは嬉しそうに笑い、フェンの頭を撫でる。


アレンはその光景を見ながら、深く息をついた。


「まあ……とりあえず様子を見るか」


こうして、ユイの新しい仲間「フェン」が、

アレンたちの暮らしに加わることになった。


---

ユイの手で介抱されたデュランス・ウルフの子供は、

すっかり彼女に懐き、「フェン」という名前をもらう。

果たして、このウルフが今後どのような存在になっていくのか——。

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