四十九話 廃村の住人
バストリアを脱出したアレンたち。しかし、身を隠す場所を確保しなければならない。安全な拠点を求め、アレンが選んだ場所とは――?
バストリアを出てから、ひたすら森を目指して走り続けた。
アレンの脚力ならば、どこまででも行けそうな気がしたが、連れているのは普通の人間だ。
ユイは背中に固定しているとはいえ、ミリアを抱えての長距離移動は、さすがのアレンでも気を使う。
森に入ると、木々の影が濃くなり、昼間だというのに薄暗い。
それでも、アレンにとっては安心できる場所だった。
なにせ、この森はすでに自分の縄張りのようなものだった。
バロッグ・ナイト、デュランス・ウルフ、様々な強敵を倒してきた森だ。
ここに生息するモンスターに、今のアレンが脅かされることはない。
「アレン、どこに行くの?」
ユイが背中から声をかける。
「この先に、前に俺が拠点にしていた場所があるんだ。でも、今はもう使えないから……」
「……だから?」
「廃村に行く」
「えっ……村?」
ユイの声が不安げに揺れる。
おそらく、彼女にとって「村」というのは、バストリアの街の外にある貧しい集落か、貴族に搾取される場所のイメージしかないのだろう。
「誰もいない村だよ。昔は人が住んでいたみたいだけど、今は無人の廃村になってる。そこなら、しばらく身を隠せるはずだ」
ヴァルガスと出会った村。
「あ…ヴァルガス…
……あいつのこと忘れてた」
アレンは額に手を当てた。
依頼を受けたとき、ヴァルガスがギルドマスターと話し込んでいたのは覚えているが、その後どうしたのかはわからない。
(まあ、ヴァルガスなら大丈夫だろう)
アレンは気を取り直し、進む速度を上げた。しばらくして、森を抜け、見覚えのある村が視界に入った。
――廃村。
崩れかけた家々、苔むした道、風に揺れる木々の音だけが響く静寂の村。
アレンは教会へ向かった。
扉を押し開けると、中は前に来た時と変わらず、静かでひんやりとしていた。
「ここ……誰も住んでないの?」
「そうだ。ここでヴァルガスと出会った」
「ヴァルガスって、どんな人?」
「昔、騎士団にいた戦士だ。ずっと封印されてたらしい」
アレンは教会の奥へ進み、棺が置かれていた場所を見る。今はもう何もない。ヴァルガスがここから解放された証だ。
(あの時のままか……)
アレンは床に手をつき、ふっと息をついた。
長い旅路の果てに、ようやく一息つける場所に戻ってきたのだ。
「ここに……住むの?」
ミリアが尋ねた。
「しばらくは、な。街に戻るのは危険すぎるし、この村なら身を隠せる」
「でも……こんなところで暮らせるの?」
「暮らせるようにするしかない」
アレンはそう言いながら、教会の中を見回した。
人がいた頃の名残なのか、埃は積もっていたものの、頑丈な造りの建物だった。
屋根も抜けていないし、壁も厚い。
風を防ぐだけでも、かなり助かる。
「この教会なら、モンスターもそう簡単には入れない」
「……住むしかない、か」
ユイはそう呟いて、そっとアレンの背中から降りた。
ミリアも、ゆっくりと床に座る。
「疲れた?」
アレンが尋ねると、ユイは静かに頷いた。
「うん……でも、逃げられてよかった……」
ミリアも深く頷きながら、アレンを見た。
「あなたがいなかったら、どうなっていたか……」
「……とりあえず、休もう」
アレンは教会の奥へ行き、かつてヴァルガスが眠っていた棺に座り込んだ。
「今日は動きすぎた。明日から、この場所を拠点として整備する」
「整備……?」
「家を作るのは無理でも、水や食料を確保して、生活できるようにするんだ」
ユイとミリアは顔を見合わせた。
「……生きるために?」
「そうだ。生きるために」
アレンは笑いながら、教会の天井を見上げた。
これから、しばらくはこの村での生活が始まる。
どんな困難が待ち受けているのかは分からないが――
それでも、生きていくしかない。
バストリアを離れたアレン。
次回は新たな生活の準備が始まる!




