四十二話 森の夜、ユイの事情
アレンは森でモンスターに襲われていた少女ユイを助けた。
しかし彼女はバストリアに入ることができないと言う。
理由を聞くため、今夜は森に簡易の拠点を作り、そこで話を聞くことにした。
ユイは何者なのか? そして彼女が抱える事情とは――
簡易的な拠点を作り、焚き火を囲むアレンとユイ。
火の暖かさにほっと息をつくが、アレンは気になっていた。
「ユイ、一つ聞いてもいいか?」
ユイが木の枝を火に突っつきながら、ちらりとこちらを見た。
「なんで、あんなところにいたんだ?」
アレンの問いに、ユイは一瞬黙り込む。
迷った末、ぽつりと口を開いた。
「…追われてたんだ。だから、逃げてた」
「追われてた?」
「うん…バストリアの貴族に」
アレンは驚いたが、表情には出さなかった。
貴族に追われていたから、バストリアには入れなかったのか。
確かに、それなら納得がいく。
「なんで貴族に?」
ユイはじっと焚き火を見つめたまま、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
「…あたしね、とある貴族の屋敷にいたんだ。けど、ある日、その屋敷を逃げ出したの」
ユイは小さく息を吐く。
「逃げたってことは、そこにいたくなかった?」
「うん。…あそこにいたら、いつか殺されてたかもしれない」
その言葉に、アレンは眉をひそめた。
貴族の屋敷…一体どんな環境だったのか。
「でも、どうやって逃げたんだ?」
「…助けてくれた人がいたの。その人が、屋敷から出る手引きをしてくれた。でも、あたしだけ先に逃げて…その人は捕まった」
ユイの声は震えていた。
「だから、助けに行かなきゃって思ってた。でも、どうやって助けたらいいのかもわからなくて…。そしたらモンスターに襲われて、そこをアレンが助けてくれたってわけ」
アレンは黙ってユイの話を聞いていた。
彼女は追われる身でありながら、助けてくれた人を見捨てられずにいる。
だが、今の彼女にできることはほとんどないだろう。
アレンは腕を組んで考えた。
このままユイを放っておくわけにもいかない。
かといって、バストリアに入ることも難しい。
「…わかった。じゃあ、まずはその人を助ける方法を考えよう」
「え?」
ユイが顔を上げ、アレンを見た。
「その人が今どこにいるのか、どんな状況なのかを知る必要がある。それに、貴族がどれだけ本気でお前を探しているのかもな」
アレンは冷静に言った。
感情だけで動いてはダメだ。
確実に助ける方法を探さなければ。
ユイは驚いた表情をしていたが、やがて、ポツリと呟いた。
「…ありがとう、アレン」
「礼はいいさ。とりあえず、今夜はゆっくり休め」
ユイは小さく頷くと、焚き火の明かりの中で目を閉じた。
アレンは夜空を見上げながら、
(貴族か…厄介なことになりそうだな)
と、ぼんやり考えていた。
ユイの過去が少し明らかに。
彼女が貴族に追われているというのは厄介だが、
アレンはどう動くのか、そしてどんな策を講じるのか……。




