四十一話 ユイという少女
森の中で偶然出会った少女。
彼女の存在が、アレンのこれからを大きく変えていくことになる――。
「ユイ……?」
少女は少し俯きながら、小さな声で名乗った。
「それが君の名前?」
「……うん」
それ以上は何も言わなかった。
アレンはちらりとユイの様子を窺う。
怯えているわけではない。
だが、どこか警戒しているようにも見えた。
「まあ、無理に話さなくていい。俺も根掘り葉掘り聞くつもりはないから」
「……ありがとう、アレン」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとう」
アレンは少し驚いた。
先ほどまで緊張していたのに、今は落ち着いている。
「まあ……あんなところで襲われたら、誰だって助けるよ」
「そうなの?」
「そうだろ」
「でも、アレンは強かった」
「……まあね」
「普通、あんなふうに戦えないよ。だから、驚いた」
「そうか」
ユイはじっとアレンを見上げる。
彼の戦いぶりが信じられない、とでも言いたげな表情だった。
「バストリアに戻ろうか」
アレンはそう言って、歩き出した。
ユイは少し間を置いてから、ついてくる。
しかし、しばらく進んだところで、ユイが立ち止まった。
「……やっぱり、行けない」
「ん?」
「バストリアには入れない」
「なんで?」
ユイは黙ったまま、唇を噛んでいる。
「……なるほど」
「え?」
「まあ、事情があるんだなって思っただけ」
ユイは驚いたように目を見開く。
「別に、何か悪いことをしたわけじゃないんだろ?」
「……うん」
「なら、深くは聞かない」
ユイは少し考え込んだあと、微かに笑った。
「アレンって、変わってるね」
「よく言われる」
「ふふっ」
ようやく、少し緊張がほぐれたようだった。
アレンは考える。
ユイを城外に放っておくわけにはいかない。
かといって、宿に連れて行くこともできない。
「……仕方ないな」
「?」
「今夜は森で泊まる」
「えっ?」
ユイが驚いたようにアレンを見つめる。
「お前をこんなところに一人で放っておくわけにはいかない」
「でも……いいの?」
「いいもなにも、選択肢がないだろ」
アレンはそう言って、周囲を見渡した。
「どこか適当な場所を見つけて、簡単な拠点を作る」
「……本当に、変わってる」
ユイはそう呟いたが、どこか嬉しそうだった。
「よし、とりあえず寝床を作るぞ」
アレンは木の枝を集め始めた。
ユイという少女と出会ったアレン。
彼女の事情はまだわからないが、今は安全を確保することが先決だ。