三十九話 ギルドマスターとの対面
初めての換金で、まさかの事態に……!
持ち込んだ素材を見たギルドマスターの反応とは——?
「これが……バロッグ・ナイトの牙だと?」
ギルドの奥の部屋。
そこには、ギルドマスターと呼ばれる白髪混じりの壮年の男がいた。
彼はアレンの持ち込んだ素材を手に取り、まじまじと見つめていた。
「間違いない、バロッグ・ナイトの牙……そして、これは……デュランス・ウルフの爪……」
震える手で、それをギルドの机の上に置く。
「おいおい……ヴァルガス、これはどういうことだ?」
「俺が知りたいくらいだな」
ヴァルガスは腕を組み、肩をすくめる。
「たまたま森で出会った男が、信じられない強さだったって話さ」
ギルドマスターは険しい表情でアレンを見る。
「お前、本当にこれを仕留めたのか?」
「はい……えっと、ダメでしたか?」
アレンは困惑しながら答えた。
ギルドマスターは、溜め息をつくように天を仰ぐ。
「……ダメというより、信じられん」
「え?」
「バロッグ・ナイトは、単体でもAランク級の脅威だ。それに、デュランス・ウルフは、群れを持たずともSランクに匹敵するモンスター……普通の冒険者が単独で狩れるような相手じゃないんだよ」
「そうなんですか?」
「……本気で言っているのか?」
ギルドマスターは、信じられないものを見るような目でアレンを睨んだ。
「確かにどちらも強かったですけど……」
「『強かった』じゃねえよ!普通の冒険者なら一撃で粉々だ!」
ギルドマスターの大声に、アレンは少し身を引いた。
「いや……その……倒せましたし……」
「倒せましたし、じゃねえ!お前、本当に……いや……」
ギルドマスターは深く息を吐いた。
「ヴァルガス、お前はこいつが本当にデュランス・ウルフを倒すところを見たのか?」
「もちろんだ。俺の目の前で、コイツはあの怪物を仕留めた」
「……本気か?」
「ギルドマスター、お前が見てもこの素材が本物だってことはわかるだろ?」
ヴァルガスはニヤリと笑った。
ギルドマスターは改めて、机に並んだ素材を見つめる。
「これは……とんでもない値段になるぞ」
「え?」
「バロッグ・ナイトの牙だけで、金貨五十枚はくだらん。デュランス・ウルフの爪なら、それ以上の価値がある」
「えっ!?そんなに!?」
アレンの目が丸くなる。
「お前、自分がどれだけ貴重な素材を持ってきたかわかってなかったのか……?」
ギルドマスターが呆れたように言うと、アレンは頭をかく。
「……なんとなく、価値があるんだろうなとは思ってましたけど、そこまでとは……」
「ったく……まあ、うちで扱うにはデカすぎるな」
ギルドマスターは、再び溜め息をついた。
「この素材を正式に買い取るには、貴族か王族のルートを通す必要がある」
「貴族……?」
「おいおい、ギルドマスター。それは危険すぎるんじゃねえか?」
ヴァルガスが渋い顔をする。
「……そうだな」
ギルドマスターは腕を組んだ。
「金になるのは間違いないが、これだけの素材を持ってるとなると、お前が何者なのかと興味を持つ奴もいる」
「……面倒なことになりそうですね」
アレンはため息をついた。
「いや……逆にチャンスでもあるかもしれねえな」
ヴァルガスがニヤリと笑う。
「どういうことです?」
「貴族連中を利用するって手もある」
「はあ……?」
ギルドマスターが怪訝そうな顔をする。
「そりゃ、コイツの素性を嗅ぎつけたがる連中も出てくるだろうが、逆にコイツが『貴族よりも上』の存在になれば、むしろ都合がいいんじゃねえか?」
アレンはポカンとヴァルガスを見る。
「貴族よりも上って……そんなことできます?」
「できるさ。お前の力があればな」
ヴァルガスの言葉に、ギルドマスターが苦笑した。
「はは……こりゃあ、とんでもねえことになりそうだな」
アレン、貴族たちに目をつけられる!?
ヴァルガスの提案とは一体!?