三十三話 デュランス・ウルフとの対峙
廃村で目覚めたアレンとヴァルガス。
しかし、突如響いた巨大な獣の唸り声が、静寂を破った。
外に潜むのは、恐るべき存在——。
「逃げろ、アレン!」
ヴァルガスの必死な叫びが、教会の静寂を切り裂いた。
「デュランス・ウルフに攻撃は効かない!
ヤツは傷をつけても、すぐに塞がるぞ!」
アレンは静かに振り返る。
「……大丈夫です」
扉の向こう、夜の闇に浮かび上がる漆黒の影。
デュランス・ウルフ。
アレンの視線と交差すると、その巨体は静かに低く身を沈め、鋭い爪を土に食い込ませる。
月光に照らされた黄金の瞳が、獲物を捉えた捕食者の目をしていた。
ヴァルガスが小さく呻く。
「バカ……! まともに戦える相手じゃない……!」
アレンはゆっくりと息を吐いた。
(確かに、普通にやり合えば、厄介だろうな)
「だが……普通にやる必要はない」
静かに、腰の血抜き槍を握りしめる。
ヴァルガスが愕然とした顔をする。
「まさか……やるつもりか……!?」
「ええ」
言い終わると同時に、アレンは地面を蹴った。
——疾風のように、獣へと駆ける。
デュランス・ウルフも瞬時に反応し、鋭い牙を剥き出しにして飛びかかる。
その一撃を紙一重でかわし、アレンは懐に滑り込む。
「そこだ!」
血抜き槍を握る手に力を込め、デュランス・ウルフの脇腹に向かって突き刺した。
ザクッ——!
深く槍が突き刺さる。
「ぐ、ガルル……ッ!」
デュランス・ウルフが怒りの咆哮を上げるが、すぐに傷を塞ごうとする。
しかし——塞がらない。
「……効いてるな」
アレンは口角をわずかに上げた。
「バカな……!? どういうことだ……!」
ヴァルガスが驚愕の声を上げる。
「血抜き槍は、刺し込んだままにすることで効果を発揮するんです」
槍の無数の穴から、血が勢いよく流れ出す。
出血が止まらない。
「この槍は、傷口を固定したまま、血を抜き続ける。
通常ならすぐに塞がる傷も、槍が刺さったままなら塞がらない。
結果、出血が続き……動きが鈍くなる」
「そんな理屈が……!」
ヴァルガスが呆然とつぶやく。
デュランス・ウルフが苦しげに吠える。
その巨体が、わずかにふらついた。
(……狙い通りだ)
アレンは静かに、次の槍を構える。
「……このまま仕留める」
デュランス・ウルフは、なおも抵抗しようとするが、確実に血が抜け続けている。
「お前の回復能力がどれほどのものか、試させてもらうぜ」
デュランス・ウルフが牙を剥き出しにして飛びかかる。
しかし、その動きは既に鈍っていた。
アレンは一歩踏み込むと、渾身の力で腕を突きこんだ。
「うおおおおおっ!!!」
——ガシッ!!
鈍い音が響く。
アレンの指が、デュランス・ウルフの頭部にめり込んだ。
次の瞬間、デュランス・ウルフの頭蓋骨が砕ける音がした。
「……!?」
ヴァルガスが絶句する。
アレンは握り潰したのだ。
まるで岩を砕くように。
「これが……ボスゴリラの力か……」
アレンは拳を見下ろした。
「ガクッ……」
デュランス・ウルフは、短くうめき、動かなくなった。
ヴァルガスは震えながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「お、お前……本当に……」
アレンは、デュランス・ウルフの死体を見下ろした。
「バロッグ・ナイトも……このデュランス・ウルフも……俺が倒しました」
ヴァルガスは息を呑んだ。
「信じられん……こんな……」
アレンはゆっくりと息を吐いた。
「さぁ……次は……」
彼は目の前の死体を見つめる。
「喰らう番だ」
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ついにデュランス・ウルフを討伐!
血抜き槍の効果と、ボスゴリラの力を活かした握力攻撃で、アレンは勝利を掴んだ。
次回、アレンが新たな力を得る!?




