三十二話 デュランス・ウルフの縄張り
廃村を探索中、突如聞こえた巨大な獣の唸り声。
ヴァルガスが語る、その獣の正体とは——。
「……静かに」
ヴァルガスが小声で言った。
教会の外から低く響く唸り声。
その音はまるで、大地を揺るがすかのような威圧感を持っていた。
「デュランス・ウルフか……」
アレンは息をのむ。
「バカを言うな! 今すぐ身を伏せろ!」
ヴァルガスが必死に制止する。
「なぜここに……」
「おそらく……」
ヴァルガスは顔をしかめ、低く呟いた。
「お前が村に入ったことで、奴は見回りに来たんだ……
デュランス・ウルフは、このあたりを縄張りとしている。
気まぐれに村を巡回しているのか、それとも何か異変を察知したのか……」
アレンは目を細めた。
つまり、ここにいる限り、遅かれ早かれ出くわすということか。
「なあ、ヴァルガス」
「何だ?」
「バロッグ・ナイトを倒せましたよ」
「……は?」
ヴァルガスの目が見開かれる。
「だから、バロッグ・ナイト。
この間、倒しました」
ヴァルガスは沈黙した。
その表情は驚きよりも、信じられないという困惑に満ちている。
「……お前、それを本気で言っているのか?」
「本気です」
「ありえん……!」
ヴァルガスは首を横に振った。
「バロッグ・ナイトは、バロッグの中でも最強の個体だぞ!?
俺は生涯で何度か目にしたが……一度も戦えたことはなかった。
お前、一体どうやって——」
「証拠なら、ありますよ」
アレンは淡々と言いながら、リュックを下ろした。
中から取り出したのは、バロッグ・ナイトの牙と骨。
ヴァルガスの顔が固まる。
「……!」
骨を手に取り、まじまじと見つめる。
「これは……確かに……バロッグの骨に見える……が……」
牙を指でなぞりながら、ヴァルガスの目が疑念に揺れる。
「だが、これだけじゃ判断できん……。
これがバロッグ・ナイトのものかどうか、証明はできない」
アレンはため息をついた。
「じゃあ、見ててください」
そう言い残し、アレンは教会の扉へ向かった。
「待て! 何をするつもりだ!」
ヴァルガスが慌てて制止しようとする。
しかし、アレンは振り返らず、静かに扉に手をかけた。
「……証明するだけですよ」
扉を押し開け、アレンはゆっくりと外へ歩き出した。
月明かりの下、視界の先には、漆黒の獣がいた。
デュランス・ウルフ。
巨躯に、漆黒の毛並み。
鋭く光る双眸が、こちらを睨んでいる。
「——さて、やりますか」
アレンは拳を握りしめ、静かに笑みを浮かべた。
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ヴァルガスの疑念を振り払うため、アレンは行動を起こす。
デュランス・ウルフとの対峙——次回、決戦へ!