第三十一話 デュランス・ウルフの脅威
封印が解かれ、目覚めた戦士ヴァルガス。
彼の口から語られたのは、かつての村の悲劇。
そして、アレンはさらなる強さを求め、
新たな強敵の存在を知る——。
「……つまり、お前は村を救うために戦ったが、
結局……」
俺は教会の床に腰を下ろし、
ヴァルガスの話を聞きながら呟いた。
「……ああ、守れなかった」
ヴァルガスの表情は暗い。
「俺は十数名の隊員を率いていた。
だが、この村にたどり着く前に——
“バロッグ”という獣人型のモンスターに襲われた」
「バロッグ?」
聞いたことのない名前だった。
ヴァルガスは険しい顔で続ける。
「二足歩行の獣人型モンスターだ。
人間と同じくらいの知能を持ち、
力も桁違いに強い。
群れで行動することが多く、
奴らの縄張りに足を踏み入れた時点で、
狩りの対象になる」
——獣人型。
その言葉を聞いて、
俺の頭の中で何かが繋がった。
(あの獣人モンスターのことか……)
あいつら、バロッグって名前だったのか。
俺はすでに何匹も倒し、喰らっていた。
「……バロッグはそんなに強いのか?」
俺が尋ねると、
ヴァルガスは力なく笑った。
「俺一人なら、一匹相手にするのが限界だ。
それでも命がけになる……
バロッグ・ナイトに出会っていたら、
もっと危なかった」
「バロッグ・ナイト?」
「バロッグの中でも、特に強力な個体だ。
普通のバロッグよりも体が一回り大きく、
知能も高い。
動きが素早く、攻撃も重い……
まともに戦えば、俺では勝てないかもしれない」
——バロッグ・ナイト。
その特徴を聞いた瞬間、
俺の頭の中に“ボスゴリラ”の姿が浮かんだ。
(……ボスゴリラのことか?)
すでに俺は喰って、
その力を手に入れている。
だが、ヴァルガスにそれを言うつもりはなかった。
「それで、何とか村にはたどり着いたんだよな?」
「ああ……だが、そこにはさらに強大な存在がいた」
ヴァルガスは苦々しく顔を歪める。
「……デュランス・ウルフだ」
「デュランス・ウルフ?」
「狼型のモンスターだ。
普通の狼とは違う……
異常なほどの俊敏さと、
尋常じゃない再生能力を持つ化け物だ」
ヴァルガスの拳が震える。
「バロッグ・ナイトよりも……強い」
俺の心臓が跳ねた。
(バロッグ・ナイトよりも……強い?)
ヴァルガスの話によると、
デュランス・ウルフは村に現れ、
生き残った隊員を全滅させたらしい。
ヴァルガスも戦ったが、
勝負にならず、瀕死の状態に追い込まれた。
「その時……神官が俺を救ってくれた」
ヴァルガスは教会の祭壇を見つめる。
「神官は、自分の命と引き換えに、
俺を救うための結界を張り、
封印術を施した」
「……」
「『いつか、また……この村を復興させてくれ』
それが、神官の最後の言葉だった」
ヴァルガスの拳が白くなるほど握りしめられる。
俺は、その話を聞きながら、
頭の中で考えていた。
(デュランス・ウルフ……)
バロッグ・ナイトより強いモンスター。
つまり、俺が今まで倒してきたどのモンスターよりも
強力な個体。
(なら……喰えば……)
俺は無意識に拳を握りしめる。
喰えば——もっと強くなれるのではないか?
ボスゴリラを喰って、
俺は格段に筋力が上がった。
ならば、デュランス・ウルフを喰えば、
更なる進化を遂げられるかもしれない。
(……やるしかない)
そのために、まずは情報を集める。
俺はヴァルガスに向き直り、
静かに言った。
「そのデュランス・ウルフ……
今もこの村にいると思うか?」
ヴァルガスは目を細めた。
「……分からん。
だが、あれほどの強さを持つ個体が、
この森を離れるとも思えない」
ならば、狩りの対象としては十分だ。
俺は心の中で静かに決意を固めた。
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ヴァルガスの口から語られた村の悲劇。
だが、アレンはそれを聞きながら、
より強くなるための方法を模索し始める——




