第二十一話 獣人狩りの始まり
獣人の巣へ向かい、まずは敵の数を把握する。
いくら俺が強くなったとはいえ、一度に複数を相手にするのは無謀すぎる。
地道に、一匹ずつ確実に減らしていくしかない。
夜の闇に紛れ、俺は狩りを始める。
月の光が雲の切れ間からわずかに漏れ、
獣人の巣がぼんやりと浮かび上がる。
「……予想以上にいるな」
木の上から巣を見下ろし、俺は慎重に数を数える。
目に入るだけでも十匹はいる。
焚き火を囲んで何かを喰らっている奴ら、
武器を持って巡回している奴、
入り口付近に立ち、外を見張っている個体。
そして——巣の奥、焚き火の光が届かない場所。
ひときわ体格が大きく、どっしりと座っている影が見えた。
「あれが、リーダー……か」
他の獣人と違い、周囲の気配を感じ取るような仕草をしている。
眠ることもなく、まるで獲物が近づくのを待ち構えているようだ。
迂闊に近づけば、即座に察知されるだろう。
まずは、周りの雑魚どもを一匹ずつ減らすしかない。
「……さて、今日は何匹狩れるか」
俺は静かに木を降り、影に紛れて巣の周囲を移動する。
一匹目
巣の外れ、木の根元に座り、ぼんやりと夜空を見上げている獣人がいた。
武器は持っているが、完全に油断しきっている。
俺はゆっくりと距離を詰めた。
枯葉を踏まぬよう足の運びに気を配り、息を殺す。
心臓の鼓動がやけにうるさく感じるが、それでも慎重に進む。
槍を構え、一気に踏み込んだ。
「——!」
獣人が反応する間もなく、血抜き槍の先端が喉元を貫いた。
骨槍の血抜きの溝を通じて、
獣人の血が勢いよく噴き出す。
呻き声を上げる暇すらなかった。
槍を抜くと、獣人はそのまま地面に崩れ落ちる。
「……まず、一匹」
俺は死体を引きずり、茂みに隠した。
周囲を見回すが、異変に気づいた様子はない。
「次だ」
二匹目
巣の入り口付近、巡回している個体を狙う。
こいつは、さっきの獣人とは違い、警戒心を持っている。
武器を握り、ゆっくりと周囲を見回しながら歩いている。
だが、動きに無駄が多い。
視線の動きも一定で、予測しやすい。
俺は奴が背を向けた瞬間、すばやく影から飛び出した。
槍を構え、背後から腰の横を深く突き刺す。
血が溝を流れ、静かに体力を奪っていく。
「ガッ……!」
短く息を漏らし、崩れ落ちる獣人。
だが、そばにいた別の個体が微かにこちらを見た。
「……気づかれたか?」
一瞬、視線が交差する。
だが、その獣人は特に異常を感じた様子もなく、
焚き火の方へ歩いて行った。
俺はゆっくりと息を吐き、二匹目の死体を隠す。
三匹目
巣の裏手、焚き火の光が届かない場所で、
一匹の獣人が木に寄りかかっていた。
眠っている。
「……これなら楽だ」
俺は槍の先端を鋭く突き立てた。
喉を貫かれた獣人は、目を見開いたまま、
声を上げることもなく絶命した。
「順調だ……」
四匹目
最後にもう一匹狩ることにした。
巣の近くを警戒しながら歩いている個体を見つける。
こいつは先ほどよりも動きが鋭い。
視線の移動が不規則で、神経を研ぎ澄ましている。
俺は慎重に間合いを詰め、
槍を構えた瞬間——
「……?」
獣人がピタリと動きを止め、
鼻をひくつかせた。
「嗅ぎつけられたか」
獣人がこちらに向かってくる。
俺は槍を構え、身を低くする。
気づかれたなら仕方ない——やるしかない。
獣人が剣を構えた瞬間、俺は低い姿勢のまま一気に踏み込む。
「ぐっ!」
刃が振り下ろされるが、俺の槍の方が速かった。
脇腹を刺し貫く。
血が勢いよく流れ、
獣人は数歩よろめき、その場に崩れ落ちた。
「……四匹目」
槍を引き抜き、死体を茂みに隠す。
だが、そろそろ気づかれるかもしれない。
今日はここまでにしておこう。
「……残りの獣人が、どこまで警戒を強めるかだな」
俺は巣を見渡し、再び影に身を隠した。
アレンの獣人狩りが始まった。
一匹ずつ確実に仕留めながら、巣の戦力を削いでいく。
しかし、異変に気づきかけている獣人がいた。
次回、巣の警戒が強まり、戦いはさらに困難なものとなる——!




