第十五話 獣人の肉
ついに獣人を討ち取った。
今までの戦いとは違い、ただの動物ではない。
知性があり、武器を持つような相手を倒したのは、
俺にとっても大きな進歩だ。
しかし、まだ終わりではない。
俺にはやるべきことがある。
「……喰うしかないよな」
獣人の死体を前にして、俺は深く息を吐いた。
今まで倒した獣たちを喰らうことで、俺の身体は強化されてきた。
うさぎ、鳥、猪…そして、今回の獣人。
「こいつを食えば…俺は、さらに強くなれる」
だが、今回は今までと違う。
こいつは、ただの獣じゃない。
明らかに知性を持ち、道具を使い、戦いの術を心得ていた。
これを喰えば、何か新しい変化があるかもしれない。
俺はゆっくりと手持ちの石ナイフを取り出し、解体を始めた。
「……さすがに、人型の相手を捌くのは、気が引けるな」
だが、迷っている場合じゃない。
俺は生きるために、強くなるために、喰わなければならない。
腹部を裂き、食えそうな部位を探る。
筋肉の付き方は猪と似ているが、骨格は人間に近い。
俺は手際よく、腕の筋肉、太もも、内臓を切り分けていく。
「これだけあれば十分だろう」
問題は、どう食うかだ。
今までは生食するしかなかったが、
獣人の肉ともなると、さすがに抵抗がある。
火を使えれば、焼いて食うこともできる。
しかし、俺は火を使わなかった。
「……火は、いらない」
なぜそう思ったのか、自分でもはっきりとはわからない。
だが、確信があった。
俺の身体はすでに、通常の人間とは違う。
猪の肉を食ったときも、鳥の肉を喰ったときも、
一度も腹を壊すことはなかった。
むしろ、食えば食うほど、身体は強くなっている。
「火で焼くよりも、今の俺には…そのままの方がいい」
そう確信した俺は、一切れの肉を口に運ぶ。
噛んだ瞬間、濃厚な血の味が広がった。
「……なるほど」
肉は思ったほど硬くない。
獣の肉とは違い、適度な弾力があり、
咀嚼すると、じわりと旨味が広がっていく。
喉を通ると、すぐに全身が熱くなるのを感じた。
「……来た」
身体が震える。
血管が広がり、筋肉がピリピリと反応しているのがわかる。
これまでとは明らかに違う。
「……これは…」
視界がクリアになる。
音が細かく聞こえ、鼻の奥に森の匂いが広がる。
「……なるほど、これは…」
俺はゆっくりと立ち上がり、拳を握る。
筋肉の密度が変わった。
これまで以上に、身体が強靭になっているのを感じる。
それだけじゃない。
五感が研ぎ澄まされ、周囲の気配をこれまで以上に敏感に感じ取れる。
「こいつの能力…感覚の強化か?」
獣人の肉を喰らったことで、
俺は単純な筋力強化だけでなく、
より動物的な感覚を手に入れたようだった。
「……これは、使えるな」
全身に力が漲るのを感じながら、
俺はゆっくりと槍を拾い上げた。
「これで…次の戦いに備えられる」
次なる獲物を狩るために、俺は森の奥へと視線を向けた。
獣人の肉を喰らい、さらなる進化を遂げたアレン。
筋力だけでなく、五感までも強化されたことで、
新たな戦闘スタイルを模索していく。
次回、さらなる試練が訪れる…!




