最終話 終わりと始まり
リューディスでの穏やかな日常。
アレンは"喰う"ことに執着せず、ただ生きることを受け入れていた——。
リューディスの朝は、今日も静かだった。
鳥のさえずりが木々の間を抜け、村の奥に流れる川の音が心地よく響く。
アレンは小屋の前で薪を割りながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……さて、今日もやるか」
斧を振り上げ、乾いた音が響く。
パカン、と割れた薪を積み上げながら、彼はふと空を見上げた。
広がる青空。
平穏な時間。
かつて"喰う"ことしか知らなかった自分が、今はこうして村人とともに生きている。
「アレンー!」
小屋の前からユイの声が響く。
「朝ごはんできたよ!」
「わかった、すぐ行く」
薪を片付け、彼は家へと向かった。
---
焼きたてのパンの香りが、部屋いっぱいに広がる。
「今日のスープ、ちょっと工夫してみたの」
ユイが得意げに笑う。
アレンは椅子に腰掛け、スプーンを手に取った。
「どれどれ……」
ひと口飲み、少し驚いた顔をする。
「……美味いな」
「ほんと!?」
「うん。前よりコクがある」
「えへへ……よかった!」
ユイの笑顔を見ながら、アレンはゆっくりとパンをちぎる。
こんな日々が、ずっと続くと思っていた——。
---
満天の星が広がる夜空。
アレンは小屋の前で薪をくべながら、静かに夜を眺めていた。
フェンは丸くなり、ユイは隣に座っている。
「ねえ、アレン」
ユイがふと口を開いた。
「ん?」
「こうやって、静かに暮らせるって……幸せだね」
アレンはしばらく夜空を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「……ああ、そうだな」
ユイが微笑む。
「おやすみ、アレン」
「おやすみ、ユイ」
彼は静かに目を閉じた。
---
……目を覚ますと、そこは——。
見慣れた天井。
見慣れた部屋。
"ここは……?"
アレンはゆっくりと起き上がる。
そこは、かつての世界——
転生前の自宅のベッドの上だった。
「……嘘だろ」
彼は息を呑み、部屋の中を見回した。
窓から差し込む朝日。
デスクの上に置かれたスマホ。
脱ぎっぱなしの服。
戻った……?
自分の手を見る。
それは、かつての普通の人間の手だった。
確かに感じる。
これは……俺が"元いた世界"の感触だ。
---
夢だったのか?
そんなわけがない。
あの世界で生きた時間。
戦った傷。
喰うことで強くなり、生き抜いた記憶。
それがすべて夢だったなんて、到底信じられない。
「……っ!?」
ベッドの横に、誰かが横たわっていた。
ユイだった。
「……え?」
彼女はまだ眠っている。
だが、確かにそこにいる。
アレンは息を呑む。
「ユイ……」
ユイの瞼がゆっくりと開き——。
「……ん……アレン?」
彼女は、夢から覚めたばかりのようにアレンを見つめた。
---
リューディスでの日常を送っていたアレン。
しかし、目覚めた場所は転生前の自宅だった。
そして、そこにはユイもいた——。
これは、ただの帰還なのか…
それとも、新たな試練の始まりなのか……
※最後まで読んでくれて、本当にありがとうございました!読んでもらえてるってことが何より嬉しかったです!そして楽しかったです!またいつか、新しい物語を書いたときは、読んでくれると嬉しいです!