不本意ながら男の娘と言われる僕は、遊戯部(遊卯ちゃんで戯れる部)の作戦に翻弄されるも、無自覚に返り討ちにする
僕は男だ。
もう一度言う。僕は男だ。
身長が152cmでも、肌が白くてすべすべもちもちでも、腕が少し細くて手がちっちゃくても、ふとももが少しむっちりしてても、まつげが少し長くても、瞼が少し二重でも、声が少し高くても、名前が少し女の子っぽくても、髪がちょっと伸びてても…僕は男なんだ。くびれも無いし胸も膨らんでない。あんまり立派とは言えないけどアレだってついてるし、女の子に対しての欲求もちゃんとある。…あれ、僕の男らしいところってそれだけしかないのかな……。
周りからの扱いが女の子に対してのものだから、口調とかは若干引っ張られちゃってる部分もあるけど、それでも僕は肉体、精神共に紛れもなく男だ。
だけど、そんな僕を誰も男として見てはくれなくて…
「ねぇねぇゆうちゃん、これとか良くない?」
「ふ、深谷さん、僕は男だから、スカートはちょっと……というかなにそれ短い…」
「こんな白くてスベスベでムチムチなふともも様を隠すなんて、全宇宙の損失だからね」
「なんで自分のコンプレックスを進んで晒さなきゃいけないのかな……?」
正確にはコンプレックスのほんの一部だけど。
僕はクラスメイトの女の子と、ショッピングモールの中にある女性用の服屋さんに来ている。僕の名前は朝倉遊卯なので、ゆうちゃんとかゆうゆうとか呼ばれてる。…女っぽい名前とか言わないで。男でも一応通用する名前…だと思う。
そしてクラスメイトの方は深谷円香さん。深谷さんとは何度も出掛けてるけど、その度に服屋さんとかアクセサリーショップとかに連れ回されて、僕は着せ替え人形にされてしまう。僕も最初は拒否してたけど、なんだかんだと押しきられてるうちにいくら抵抗しても無駄だって気づいて、それからは拒否するのをやめた。
とはいえさすがに布面積が極端に小さな服を着るのは、僕のコンプレックス的に嫌なのでちゃんと抵抗はするんだけど…それでも結局は押しきられちゃうんだよね……。押しの強い女の子ってこわい……。
ちなみに今深谷さんが持ってきたのは、黒いヒラヒラが付いた短いスカートにこれまた胸元にヒラヒラの付いた黒いドレスみたいな服。こんなのをゴスロリって言うのかな。というかよくこんなの見つけたね……。
「私、あんまりかわいい系の服って似合わないから、着たくても着れないんだよねー。だからそういうのが似合う子にはちゃんと可愛くしてほしいの」
「だからって別に僕じゃなくても……」
「駄目!ゆうちゃんは私が今まで見た中で最高の素材なの!!ちゃんとおめかししなくちゃ!」
「素材って……モンハンじゃあるまいし……」
でも深谷さん、僕に着せて似合ってた服、後でこっそり買いに来てるよね?こないだ見たよ。でも僕のサイズじゃ僕より一回りくらい背が高い深谷さんには合わないはずだけど、一体何に使うんだろ。
「とにかく、早く着てね!私、次の服探してくるから!」
「わっ!ちょ…っ」
服を押し付けられて、有無を言わさずに更衣室へ押し込まれてしまった。そこで正面にある姿見に映る自分を見てため息をつき、そのため息すら女子女子しているのでさらに落ち込むというおかしなスパイラルに陥ってしまった。
その辺の女の子どころかヘタなアイドルよりもかわいいと自分でも思うほどに、その姿は女の子していた。灰色無地の長袖Tシャツにダメージの入ったジーパンというファッション性の欠片もない服装なのに、何故か僕が着ると可愛くなる。
「はぁ……」
せめて、中性的って言われるくらいの容姿に生まれたかった。本当はかわいい服もおしゃれなアクセサリーも全く興味無いのに。僕はただ、かっこよくなりたい。強くなりたい。女の子にモテたい。略してカツオのことばっかり考えてる普通の男子なんだ。…別にボウズの次男のことを考えてるわけじゃないよ?
でも、僕が女の子にちやほやされるのは、かわいいから、や、女の子っぽいから、であって、男としての僕をかまってくれる子なんていない。こんななよなよした性格をしいてる自分が1番悪いのは分かってるんだけど。
これまでの自分の立ち位置と将来への展望の無さに幾度もため息をつきながらノロノロと服を着替えたけど、最後にどうしてもできないことがあった。
「あれ?背中、ファスナーになってるんだ…」
んしょ、んしょっと背中に手をのばしてみたけど、どうしても届かない。それでも背中が開きっぱなしなのは嫌なので四苦八苦していると、服を選び終えた深谷さんがカーテンの向こうから話しかけてきた。
「ゆうちゃんまだー?もう20着くらい探してきたんだけどー」
「20!?お、多すぎだよ…。あの、背中のファスナーが閉まらないから、もうちょっとだけ待って…」
「ファスナー?あぁ、そういうタイプだったんだー。ん、閉めたげるからちょっと入るねー」
「えっ?」
なんの躊躇いもなくカーテンの隙間から、するりと更衣室に入ってくる深谷さん。って、え、えぇー!近い、近いよ!!
「ちょ…っ! ダメだよ入ってきちゃ!」
「えー、いいじゃん。ファスナー閉めるだけなんだからー」
いやでも僕一応年頃の男だよ!? そっちが女の子同士のつもりで接してきても、僕にとっては異性なんだから…!
深谷さんは僕が恥ずかしがっていると思ったのか、からかうようににやにや笑いながら一歩踏み込んできた。僕は無駄だと分かりつつも、なるべく触れなくていいように壁に身を寄せる。
「むー、なんで逃げるのー?」
「だ、だめだよ!こんなところに男の僕と入るなんて!」
「んー、ゆうちゃんならいいよー」
「!?!?」
ちょっと考える素振りを見せたかと思いきや、深谷さんは更に距離を詰め、ついには正面から密着してきた。
か、顔が近い…ほんの少しでも頭を前に出したらキスできるほど近くに深谷さんがいる……っ
「えへへ…ゆうちゃん、顔真っ赤だよ?」
「…っ!?」
「女の子みたいなのに、やっぱり男の子なんだねー」
「分かってるんだったら、離れて……っ!」
「んー?男はみんな狼なのかなー。ゆうちゃんに襲われちゃうのかなー?」
言いながら更に体を寄せてくる深谷さん。僕とは決定的に違う女の子のやわらかい身体が押し付けられて、顔が更に真っ赤になってるのが自分でも分かる。
「お、女の子がそんなこと言っちゃダメ!」
「ん?男の子なら良いの?ゆうちゃん、言ってみる?」
「そういう問題じゃないよ!」
「じゃあどういう問題?」
「それは…っ」
「はい時間切れー!ギュー!!」
僕が振り払おうとしても、深谷さんはびくともしなくて、逆に背中側に手を回して抱きしめてきた!
「んふふっ…ゆうちゃん……」
「な、なに!?とりあえず離れて…っ」
僕の言葉がまるで聞こえていないかのように体を押し付けてきて、僕はもう深谷さんの匂いとか柔らかさとか温かさとかで卒倒しそうだ。
そんな僕を弄ぶように、深谷さんは僕の耳元にそっと口を近づけて…。
「ファスナー、閉めたよ?」
「……へ…?」
そう言ってあっさりと体を離した深谷さん。密着してることで頭が一杯で全然気づかなかったけど、そういえばさっきより肩の辺りが窮屈になった気がする。
なーんだ、深谷さんはチャックを閉めるために手を僕の後ろにやっただけかぁ。僕が背中を向けなかったから、深谷さんも後ろに手を回すしか無かったんだね!よかったぁ。
「って、納得できるかー!」
うがーっと獰猛なライオンをイメージして叫んだけど、深谷さんはまたもや僕を抱き留めた。
「おー、どうどう。いいこいいこ」
「んむぅぅぅぅ!?」
ただし、今度は僕の顔を豊満な胸に抱き込む形で。
「よーしよし…ゆうちゃんはいいこだよー」
「んー!!」
なにが悲しくて同級生にこんな甘やかされ方をされなきゃいけないんだ!しかもめっちゃ気持ちいいのがまた…。
「はふぅ…」
「うへへ。かわいいのぅ。うりうりー」
「んにゃっ」
はっ!?やばい!完全に堕ちかけてた!もうなんなの深谷さん!テクニシャンなの!?
「ふ、深谷さん!そろそろ…」
「そうだね。お店に迷惑かかっちゃうし、続きはおうちでしよっか」
「しないよ!?」
「大丈夫だよー。ちゃんと私の家でやるから」
「もっとダメだよ!深谷さん一人暮らしでしょ!?そんな所に男の僕が入ったりしたら…ま、間違いが起こるかもしれないんだよ!?」
「ふぅん?ゆうちゃんは男の子だから、私のこと襲っちゃうんだー。やっぱり狼?」
ニマニマしながら話す深谷さん。か、確実にひ弱な僕をからかってる…。でも、いつまでもやられっぱなしじゃダメだよね!男朝倉、今日は勇気を出します!
「そ、そうだよ?僕だって男なんだ!女の子の家に行ったら、狼になっちゃうんだ!」
「へぇー。そっかそっかぁ」
「ほ、ホントなんだからね?」
「うんうんー、分かってるよぉ」
うん、その顔は絶対に分かってないって僕でもわかるよ。でも今日は徹底的に抗議するって決めたんだ!
「深谷さ……っ!?」
僕が決意を固めて次の言葉を発するより早く、深谷さんはまたもや僕の耳元に口を寄せてきた。
「ゆうちゃんみたいな可愛い狼さんなら、襲われてあげても、いいよ?」
そう聞こえた直後、僕の左頬に、少し湿った柔らかい感触がした。
……えっ?待って?何今の。僕、頑張って抵抗して、でも、からかうのをやめてくれなくて、ムキになってたら、深谷さんの顔が近づいて……えっ?
「…………い、今の…は…?」
「ん?ほっぺにちゅーしただけだよ?」
……深谷さんは僕になら襲われて良いって言って、そのあとすぐに頬にキスされて…それって……つまり……
「……きゅぅ〜〜…」
そこまで考えて、僕は気を失った。
「ありゃりゃー、やりすぎちゃったかなー」
オーバーフローしちゃったゆうちゃんに代わりまして、深谷円香です。いやぁ、まさかちょっと思わせぶりなこと言ってほっぺにキスしただけで気を失っちゃうとはねー。これで私を襲ったりなんかしたら死んじゃうんじゃないかな?まあもしすることがあるとすれば、その時は多分私が襲う側だけど。
にしてもかわいいなぁ、ゆうちゃん。アニメとかだったら目にうずまきをぐるぐるさせてるんだろうけど、リアルではただ健やかに眠ってるようにしか見えない。かわいい。
まぁそもそも、女子よりかわいい男子なんて、それこそアニメみたいな話だけどね。
さてさてそれよりも、今日の真の目的を果たすとしますかなー。気絶するのはちょっと予定外だったけど、ゆうちゃんがおねんねするのは計画どおりなのだ!
ゆうちゃんが元々着てた服は私が持ってきていたバッグに押し込んで、お店の服を着せたままゆうちゃんをおぶって試着室から出る。
「あっ、店員さん!すいません、妹が試着したまま疲れて寝ちゃって…。あ!でもとっても気に入ってたみたいなんで、そのまま買わせてください!…そうですね、このまま着せて帰るので、値札だけ外して貰えると……」
買い物を済ませ、帰り際に、店員さんに「かわいらしい妹さんですね」と言われてから、妹ゆうちゃん(気絶中)をおぶったまま待ち合わせ場所に行く。そこにはいかにもヤクザやマフィアが乗ってそうな黒塗りの高級車……ではなく、どこにでも走っている白い軽自動車が停まっていた。
私が近づくと、助手席の窓が開いて運転手が一言。
「……首尾は?」
それに対して私も答える。
「多少の予定外はありましたが、上々です。そちらは?」
「完璧に決まってるでしょ。さ、早く乗りなさい」
「了解しました。あ、分かってると思いますけど、ゆうちゃんは私の隣ですからね?」
その一言で、今までのB級スパイ映画みたいなノリは崩れた。
「なっ!?今まで背負って来たでしょ!助手席に乗せるくらいいいじゃない!」
「だーめでーす。ゆうちゃん寝てるからしっかり支えてなきゃいけないんですー」
「じゃああなたが運転しなさい!私が遊卯を支えるから!」
「もしもし警察ですか?知人の女性に無免許運転を強要されそうなんですけど…」
「時報にかけといて何話してんのよ!そんなんじゃ屈しないからね!」
「次はマジで掛けます」
「くぅっ!」
ふはははは。ゆうちゃんの隣は私専用なのだ!いくら共犯者でもそこは譲れない。あ、このゆうちゃんの隣を狙ってくる悪い女は、朝倉 美羽さん。ゆうちゃんのお姉さんで、同じ高校のOG。
私と美羽さんは、共に遊卯ちゃんで戯れる部、略して遊戯部のメンバーである。厳密に言えば美羽さんは違うけど、卒業後も度々…というか大学の4限目に講義のない日は絶対に放課後に来ているので、もうメンバーってことで良いと思う。
今日はその部活の裏活動で、創部後初めての大規模作戦の最中なのだ!
ズバリ!「目が覚めたら部屋が女の子の部屋みたいになってて、クローゼットの中身も女の子用の物になってて、うーん、これはもう女の子になるしかないね!」作戦!!……名前を考えたのは私じゃないからね?
とりあえず、あらかじめゆうちゃんに似合う服を沢山買って、私とゆうちゃんが出かけてる間に男物の服と全部取り替えちゃおう!という作戦。既に美羽さんと他4人の部員の手によって部屋は改装済み。元々ゆうちゃんのものだった私服は、一緒に住んでいる美羽さんの部屋に押し込む。ふふん!我ながら完璧な作戦ですなー!あ、作戦名以外の立案者は私だよ。
ガヤガヤうるさい美羽さんを煽りながら車に乗り込んで、ゆうちゃんを膝の上に乗せる。尚もブツブツと文句を垂れる美羽さんだったけど、渋々車を運転し始めた。
「にしても、ゆうちゃんはホントにかわいいなー」
ぷにぷにと柔らかいほっぺたをつつきながら、ゆうちゃんの可愛さに思わず見入ってしまう。さっき私がキスした場所に触れると、「ふみゅ…」という寝言と共に少し眉根を寄せて、ゆるゆると手を動かして私の指をにぎにぎしてきて、そのままふにゃっと表情を柔らかくして、また寝息を立て始めた。
「……めっちゃかわいいぃぃぃぃ!!!」
「ちょっ!うるさいわよ!遊卯が起きちゃうじゃない!」
はっ!?危うくゆうちゃんを食べちゃう所だった!はじめてはゆうちゃんを女の子にしてからってきめてるのに!!おそるべし、ぷにぷにふみゅふにゃにぎにぎ生物。
大声を出したせいで寝顔が険しくなったゆうちゃんを、にぎにぎしている手とは反対の手でなでなでしてあげたら、またふにゃってなった。
かわいいぃぃぃぃぃ!!今度は心の中で!
「くぅぅぅぅ!!!」
美羽さんがバックミラー越しにこっちを見て、歯ぎしりしながらハンドルに爪を食い込ませてるけど、ゆうちゃんの可愛さの前では些細な問題だよね!負け犬は前見て安全運転してればいいの!
そのままゆうちゃん宅に着いたけど、ここからが正念場だ。もう寝てるだけになってるゆうちゃんを起こさずに、部屋のベッドまで運ばなければならない。本当はジャンケンで勝った別の子がやるはずだったんだけど、今やゆうちゃんは私の指だけではなく、腕まで抱きしめて寝ているので私がやることになった。イヤーショウガナイヨネゴメンネー。
起こさないように慎重にゆうちゃんを抱え上げる。もちろんお姫様抱っこで。見た目の小ささより更に軽く感じて、やっぱりゆうちゃんは本物の天使なんじゃないかと真剣に考えた。
「後は遊卯を部屋のベッドに寝かせるだけね。早く行きましょ」
「あ、はい」
少しでも私とゆうちゃんを接触させたくないのかな。美羽さんが急かすと同時に家で待ってた部活の子達もコクコクと頷いている。
今回の作戦で最も役得な時間を過ごしている私が、部員達から羨望の視線を浴びて優越感に浸りながら家に入ったそのとき。
「ふぁ……ん……?」
「……っ!?」
突然あくびをして目を開けたゆうちゃんにドキッとした。それは可愛いゆうちゃんの寝ぼけ眼を見たせいでもあるけど、今はやばい!起きたらバレちゃう…!
私達の間に緊張が走る。
みんなの視線に晒されたゆうちゃんは、眠そうな目を少しだけ開けて、私を見てふにゃっと笑った。
「ふ…みゃ……?だっこ…?おかーしゃん…えへへ…」
時間が止まった。
いや落ち着け私。落ち着いて状況を整理するんだ。
寝起きで夢うつつなゆうちゃんが、私をお母さんと勘違いして、私の首にゆるゆると手を回して甘えてきた。
それだけ。うん、それだけだ。それだけなのに……
「「「ブハッッッ!!!!」」」
次の瞬間、辺りが血の海と化した。
もちろん部員達の鼻血で出来た血溜まりだ。直に見た私も当然大量の血液を垂れ流している。ゆうちゃんにかからないように咄嗟に後ろを向くのが精一杯。
貧血でクラクラするが、それでもゆうちゃんを落とす愚行だけは犯さずに、片膝をついて持ち堪えた。
出来れば立ちたいが、立とうとするとゆうちゃんに血が垂れてしまいそうだ。まだ死んでいない部員に血を止めて貰うため、ティッシュを求めて辺りを見渡す。
「だ……だえか、てぃっひゅ……ふぃっしゅを……」
「おかーしゃん……?もっと…だっこ……」
「ぐはぁっっっ!?」
会心の追い討ちに耐えきれなかった私は更なる出血を余儀なくされた。もはや膝立ちすらもままならず、床に座り込む。
私含む部員全員からとめどなく流れる血液は、全員分集めれば人一人分の致死量を超えるかもしれないくらいに流れてしまっている。私以外は既にぶっ倒れてしまい、さながら大量殺人事件の現場のようになってしまった。
いや、これはもはや事件だよ。溢れ出る可愛さが起こした悲しい事件。可愛過ぎキュン致死罪で私の隣に無期懲役確定。上告も棄却で一生私に寄り添って生きてもらわないとこの罪は償えないよ、ゆうちゃん被告。
……ヤバい。私も本格的に思考がおばかになってきた。意識が……だんだん………とおく……
「おか……しゃん……ねんね……?ぼくもねんねすりゅ……」
薄れゆく意識の中で聞こえた声にトドメを刺されて、私は多幸感に包まれながら意識を手放した。
こうして、私達遊戯部の作戦は今日もまた失敗したのだった。
……数分後。
「ただい……まぁ!?…………はぁ……また盛大にやったわね……てか遊卯ちゃんかわいいっ!!」
買い物から帰ってきた呆れ顔のゆうちゃんママに叩き起された私達は、不足した血液を補給するため鉄分多めの料理をご馳走になり、そのまま血で汚れている床や壁を大掃除することになった。作戦は失敗したし最後の方はなぜかあんまり覚えてないけど、すっごく幸せな気持ちだった気がするのでよしとしよう!
ちなみにゆうちゃんはママ命令でその日はずっと女の子の格好で抱きかかえられていた。
「なんでなのさぁああああ!!!」
休日の住宅街に響き渡るゆうちゃんの可愛すぎる悲鳴が、5時のサイレンをかき消した。