第八話 リッチな夕食会
ミアウはみんなより一歩遅れてダイニングルームへと向かう。扉を開けるといつもの夕食の風景だった。
「ミアウ、どうだ? その服は」
上座にいるエリックはミアウの服を見る。ミアウはスカートを広げてその場で一周する。
「ちょっと大きいけどそんなに気にならないわ。あと、前の服はもう捨てちゃった?」
自分の椅子に向かうとシックが隣に移動してきた。エリックはシックにナイフを投げる。見事に避けられて壁に突き刺さった。
ベディーは何食わぬ顔で鏡を見ている。ウィルジウスは関わりたくないのか精一杯、目を逸らしている。
目をそらしても何をしても狙われるのはシックのみだ。ミアウはそれを分かっているため、彼らを無視し、食事をするべくウェイトレスを呼ぶ。するとすぐにカトラリーが来た。
「おい、ミアウ、勝手に呼ぶな」
エリックが運ばれてきた食事を見ながら言った。
「いいでしょ? おなかすいてたんだもん」
ミアウはナプキンを膝の上に置く。エリックが食べたことを確認してミアウもナイフとフォークを持つ。
「あっちでは何を食べたんだい? お米か?」
ミアウが牛肉を切る隣でシックは尋ねる。ミアウは待ってましたと言わんばかりに目を見開く。
「最後に食べたのはフレンチフライ! あとね、毎食お米を食べるの。味のあるお湯をかけたり、魚と食べたり。すっごくおいしいの!」
興奮気味で答えるミアウは肉を頬張る。質問したシックは興味を失ったのかケールサラダを食べている。エリックはミアウの様子を窺う。どこかそわそわしている。ウィルジウスとベディーは純粋に食事を楽しんでいる。
エリックは咳払いをする。
「学校はどうだったか? 毎日何をしていたのだ?」
シック以外の全員が彼に注目する。あんなに人間界を嫌っていたエリックが人間界のことを質問するなんて。
フォークから肉が落ちる。
「うっそ!」
ミアウはそんなことも気にせずに椅子から立ち上がる勢いで叫ぶ。
「パパがあっちのこと、聞いてくれるなんて! きゃー! うそみたい!」
甲高い声に皆眉を顰めるが「質問に答えろ」とエリックがミアウを急かすので食事を進める他ない。
ミアウはエリックから目を離し、どこか遠くを見る。
「えーっとね、学校は毎日お弁当で、あ、わたしは作れないからパンを買って食べていたの。友人も……できたし、勉強もできたし、すごく楽しかった。本当に」
「そうか。じゃあ……」
「未練たらたらだな」
エリックの言葉を独り言で遮ったのは黙っていたベディーだった。沈黙が訪れる。皆が否定しないのはミアウの顔を見たからだ。Ⅿの顔は確かに未練が残っていそうだった。
「まあ、戻れることもないんだし。未練があったって、関係ないね」
ケールサラダのおかわりが四回目のシックは続ける。
「次は人間界ではなくあの世だ。行くのはエリックだけどね」
ミアウは忘れていた。
「そっか、わたし、罰として行ったんだ」
ウァルティーニ家の夕食会にはまた沈黙が訪れた。
次回 魔王の子供たち






