第七話 居候と新居候
ミアウは手を振って部屋を出る。部屋を出たところには居候が二人いた。
「ベディーもまだいたのね。早く職を探ししなさいよ」
ミアウはシックとベルディーナウトに嫌味を言いながら自室のある二階に向かう。階段は昔より小さくなっているような。
「ミアウ。大きくなったねー。人間界でボーイフレンドできた?」
ベディーはニタニタした顔で言う。ミアウは自分の部屋の前に着いたところで後ろを振り返り、ベディーの頬を平手打ちした。
「出来るわけないでしょ。部屋の中で着替えるから付いてこないで」
ミアウが強く言うとシックが急に焦る。
「あ、エリックから聞いていないのかい? ミアウが魔王に立候補したから護衛が付くことになったんだ。中にいるよ」
「はあ? 護衛?」
ミアウは疑問に思いながら扉を開ける。中には背の高い男性がいた。ミアウは急いでシックに向き合う。
「どういうことよ! なんで男の人なの⁉ 普通女の人でしょ!」
ミアウは静かに叫びながらシックを睨む。
「男も女も変わらないよ。ウィルジウス、自己紹介して。……あー、名前言っちゃった」
シックは眉を下げて部屋に入り、ミアウの腰とウィルジウスと呼ばれる男の腰を引き寄せる。一メートルもない距離に戸惑いながらもウィルジウスは口を開く。
「ウィルジウスです。つづりは……こうです」空中につづりを書くウィルジウス。「で、エリックに雇われました。よろしくお願いします。ミアウ・ウァルティーニ」
ミアウは出された彼の手を見る。刺繍が入った手袋をしている。ミアウは差し出された手を無視してクローゼットを開ける。中には新しい服がいっぱい入ってあった。
「シック、前までのドレスは?」
ミアウはクローゼットの隅から隅まで探すがすべて新しい服やドレスで、ミアウの気に入っていた物はなくなっていた。
「成長期だし、古いのは捨てたんじゃないか? 前までは一度着たらもう着てなかったし」
シックは握手されないと分かり、腕を組んだウィルジウスの肩を叩く。シックなりの元気づけ方だ。ミアウは服がないことにがっかりし、深いため息を吐く。
「トランクは? 王宮から来てない? 買った服とかが入ってるのに」
「トランク? 来てないぞ」
ベディーはミアウの隣に来て、ミアウの腰に手をまわす。そしてクローゼットから一着取った。
「これが似合うよ。ロングブーツも着替えて夕食会に出よう」
その発言にミアウはムッとする。
「なんでみんなしてロングブーツを否定するのよ」
「こっちのリボンはこっちに結ぶんじゃない? 肩が出ちゃってるよ」「早く脱ぎなぁ」「なんか変じゃないですか? コルセットがうまく閉まっていないのでは」
言われるがまま着替えなおす。シックはミアウに興味がないし、ベディーはカノジョがいるし、ウィルジウスは後ろを向いてくれる。その為、ミアウは彼らの前で着替えることができる。
「靴はこれでいい?」「小さそうにみえるけどぉ?」「こっちの靴の方がいいのでは?」
ときどきベディーがミアウの太ももを触ろうとするが、その度にシックがミアウの脱いだ靴を顔にぶつけた。
ベディーが鼻血を出したところであとはアクセサリーだけとなった。するとシックは一つの棚を開けた。ミアウのカチューシャ置き場だ。そこから一つのカチューシャを取り、ミアウの頭に付ける。
鏡を見るとそこには「ザ・ウァルティーニ姫って感じですね」ウィルジウスの呟きは静かな部屋に響き渡る。シックは孫でも見るような顔になっている。
たくさんのリボンが付いた部屋着に大きめのリボンが付いたカチューシャ、歩きやすい低いヒール。全体的に白い。
「着せ替え人形って大変。おなかすいてきたやった」
ミアウが胃をさすりながら言うとシックが悪魔のような笑みを浮かべた。
「下でエリックが待ってるよ」
『注目のアノ子は無事家に帰れたみたいだけど、家にいるほうが無事じゃないかも? Ⅿの家の夕食はウァルティーニ国王も、ウァニュ家のシック様も、変わり者のベルディーナウトも、うわさの『騎士様』もいるんだよね。わたしだったら緊張しすぎて食事の味がわからなくなっちゃうよ。Ⅿも苦労してるよね。それ以上に苦労かけてそうだけど。みんな、アンノウン、わたしの元に帰って来て』
次回 リッチな夕食会