第三話 帰りを待つ者
シックは玄関の前で正座する。その体制で何分経ったか。
「シック、まだそこに? ミアウはまだだと思いますけど」
後ろから歩いてくる音と共にかわいい声がする。シック・ウァニュは振り返り、立とうとする。
「うっ」
シックは咄嗟に痛む足を抑える。すると急に腰をさすられた。
「あっ、ウィルジウス」
シックの腰をさすっていたのは国王の雇った騎士、ウィルジウスだった。彼は不安そうな顔をしながらシックを立ち上がさせる。
「何分経った?」
シックは尋ねる。するとウィルジウスは困ったような顔をした。
「五分も経ってない。そろそろお部屋に……」
「なーにしてんの? 二人共。ミアウはハーティンの所に寄ってるからまだじゃね?」
一人の男がシックとウィルジウスのやり取りをぶった切った。
「うわっ、ベルディーナウト」
シックは普段崩れない表情を崩し、髪を耳に掛けた。ウィルジウスはベルディーナウトを一瞥してシックを心配そうに見つめる。
空気の読めない男、ベルディーナウトはそんな彼らの前に一枚の紙を差し出す。
「これはなんですか?」
ウィルジウスは紙を取り、目を通す。シックはせっかく立ち上がったのにも関わらず、四つん這いになって腰をさすり、うめき声をあげている。完全に化け物だ。見た目以外。
「っ! シック、ミアウがいます! ほら!」
「んー? わあ、ほんと」
シックは正座になってウィルジウスから受け取った紙を真剣に見ている。
「ベディー、これは? だれのタイプライターに? どこのサイトからの記事?」
シックは猫背で質問した。すると「ベディー?」とウィルジウスが首を傾げた。シックはベルディーナウトだからベディー、と説明する。
ベディーはシックに答えるべく、シックの前にしゃがんで紙の左上を指差した。
「えーっと、サイトは『フィクションタイム』だね。俺がミアウの部屋に入ったとき、タイプライターが動いてたから取ってきちゃった。ここの番号をタイプライターに入れたら俺も見れるのかなぁ」
ベルディーナウトはシックから紙を取り、記事の最後の番号を見て呟いている。覚えて自分のタイプライターに入力しようとしているが、彼の記憶力だと紙を持って行ったほうがいいだろう。
「ミアウの所から勝手に取ったの? 帰ってきたら謝りなさいよ」
シックは立ち上がり、ベディーの頭を軽く叩く。「てへ」ベディーは年に似合わない声を上げた。
シックはそれに逃げるように玄関から去る。
ウィルジウスは階段を素通りし、廊下に動き始めたシックを見る。
「シック、部屋は二階です!」
次回 仲直り?