第三十五話 破滅への序曲
「“君の瞳に乾杯”? タルト王子、あなたミアウ・ウァルティーニに振られたばかりでしょう」
シュリーユは彼からもらったグラスを容赦なく床に落として近くにいたウェイターを呼ぶ。
「確かに昨日ミアウに振られた、でも君今フリーだろ? 今日くらい相手してくれよ」
ウィルタルトはシュリーユの手を掴み、自分の顔に持っていく。嫌気が差したシュリーユは片付けるウェイターの襟を掴み、そのまま彼にキスをする。
「私はこの通り相手がいるから。狙うなら他の女にしてくれる?」
ウェイターがシュリーユの腰に手を回すのを見てウィルタルトは舌打ちをしながらバーから離れていった。
「助かったわ、ありがとう。わたしはシュリーユ、あなたは?」
「俺はベルディーナウト、ベディーって呼んで」
『あれ? 学園のパーティーにMの家の居候が参加? ウェイターにでも紛れたらしいけど、何のため?』
ミアウはミニタイプライターに来たアンノウンの最新記事の通知を確認する。隣のハーティンもシュウウィジディーもミニターを見て目を見開いている。
「うそでしょ、ベディーがここに来てるの?」
「そうみたいね。わたしのパーティーを台無しにされる前にあんたのとこの居候を見つけて放り出すわよ、MとSはここを、わたしはバーを探すわ」
指示だけ出してハーティンはバーに向かった。シュウウィジディーとミアウは顔を合わせて頷く。
「Hに任せてダンスフロアに行きましょ」
「賛成」
「うっそ! ベディー、ミアウ・ウァルティーニの居候なの?」
「そうだよ、もう……五年以上いるかも」
「苗字は? 貴族でしょう?」
「勘当された」
シュリーユとベディーは以外にも話が盛り上がり本物の恋人のようになっていた。
「じゃあ出身は? わたしは中央よ」
「え、シュリーユちゃん王族なの?」
「違うわよ、母は中央の娼館で働いてるの。父はよくわからないけど、今はウァルティーニ国在住のウァニュ家の屋敷にいるわ」
「俺馬鹿だからわかんねーけど、“働いてる”って現在形?」
「……そうよ?」
ベディーはシュリーユの複雑な家庭に吐き気がして席を立つ。
「帰る、会えてよかったよシュリーユ。じゃあね」
「待ちなさい! あなたベルディーナウトよね」
ハーティン・ムーンがベディーの行く先を塞ぐ。シュリーユは静かにバーから離れてダンスフロアへ姿を消した。
「もう、帰るとこだから!」
「レーシェンファースに破門処分されたあなたを、わたしが野放しにすると思う? あなたが馬車に乗って行先を書くまでわたしは見てるわ」
『侵入者は開催者に追い出されたみたいね、ゴシップだらけの楽しい夜になりそうだったのに』
「ミアウさん、ベディーはもう出て行ったらしいです、あとフィクションタイムから速報でウィルタルト王子がタップダンスしてる動画がリアルタイムで流れてます」
「ほんとね、アンノウンって生で見れない学園の外の人にそこまで気を遣うのね。わたしたちは生で見れるからミニターはしまってパーティーを楽しみましょう。あそこにいる彼、あなたに手を振ってるわ、行ってきて!」
「え? え、え?」
ミアウはやや強引にシュウウィジディーを送り出し、ため息を吐く。
「なんで魔界は厄介事だらけなのよ。あー、人間界に戻りたいわ」
次回 不器用な愛




