第三十二話 ウァルティーニ家の地獄の朝食
『知ってる? ウァルティーニ当主は休みの日は家族水入らずで朝食を取ってるみたい。でも今日の朝食は違うようね。W・W騎士様もウァニュ家のC様も執事もどきのBも。
もちろん家族になったばっかりのSも。Mは大変だね。前までパパと二人きりの朝だったのに。でもね、大人数もいいわよ? 朝からパーティーみたいにはしゃいで。
わたし、今日は新入生歓迎パーティーたのしみよ。Hはなにをやらかすの?今日もいっぱいゴシップが届きそう!
ウァルティーニ家の食卓の話は屋敷の者からのリークよ。だれも屋敷の住人とは言ってないわよ。またね。~フィクションタイム~』
「パパ、これはどういうこと? なんで家族の朝食にシックたちがいるのよ」
ミアウ・ウァルティーニは自分の椅子に座りながら不満をぶつける。
「別にいいだろ? 嫌なら追い出すが」
上座にいるのはウァルティーニ家当主、エリック・ウァルティーニ、ミアウの父だ。
「あら、これは家族の食事会だったのですか? では、ボクはここで」
立ち上がろうと椅子を引くボクっ子、シュウウィジディー。
「ちょっとまて、ウィジ、待て」
「なんですか? ウァルティーニ様」
「君は家族だ。養子縁組もしただろう?」
ウィジは少し考える。
「しましたね。でも今までウァルティーニ様とミアウで朝食を取っていたのでしょう? ボクがいたら家族水入らずになりませんよ」
「いや、君はもう家族だよ。これからは三人で朝食を……」
「四人よ。シックが見えない?」
ミアウが口をはさむ。
「シックは今から追い出すから。だから、これからは三人で……」
「ウェーイ! 朝からパーティーだあー! シックのワイン、みんなで飲も!」
居候のベルディーナウトが参戦してきた。
「ちょっと、ベディー! シックに怒られるって!」
涙目のウィルジウスがベルディーナウトを追いかけて来た。
状況を理解していないエリックが席を立つ。
「ウィルジウス、どういうことだ……」
「なにしてくれとんねん! このクソベディー!」
ベディーの頭にシックの革靴が飛ぶ。
「やだ、汚いじゃない、シック!」
「いいだろ! このくらい! あれはパパからもらった俺のワインだ!」
シックはもう片方の靴をミアウの後ろに投げる。
「“パパ”って……。どっちのだよ」
ベディーが呟く。
シックは自分のブローチをベディーに命中させた。
「やましいことがない、普通の親のほうを言ってるんだよ!」
「なんだよ、いちいちうるっせえな! もう一つの意味合いでもあるのかよ!」
「……ねえよ! 早くワイン返せ!」
ベディーとシックがワインを取り合う。
「そんなにしたら落ちちゃうよ?」
ウィルジウスの言葉は無意味だった。
無数のガラスが飛び散る。
白い大理石の床に広がるワインレッドはとても美しかった。
「じゃあ学校行ってくるわね」
「ミアウさん、待って! 僕も行きます」
階段を駆け下りるウィジを待たずミアウは玄関を出る。
窓からは早々に走り去る馬車が見えた。
「待ってくれなかった……。馬車、まだありますかね?」
「どうだろうね。朝のこの時間は取られちゃうから早く行きなさい」
「はい、では行ってきます。えーっと……お父様」
エリックはウィジに父と呼んでもらえたことが嬉しく、満面の笑みで見送る。
「いってらっしゃい」
「なんでこんなことになるんだよお」
シックは一人、布巾で床をこする。
「大丈夫です、ベディーは磔にしときました!」
ウィルジウスはシックから布巾を奪い、床を拭く。
「ベディーの罪とかどーでもいいから。僕はただこのワインが飲みたかったんだ。
このワインはね、僕が生まれた年の物なんだ。それを二十五の誕生日で父にもらって」
「そうなんですね。シック様は二十五以上なんですか」
「……それでね、今夜飲もうと思って、父をここに呼んだんだ。ないと知ったら、悲死んじゃうよお」
シックは床にへたり込む。
「シック様のお父様は、ザック・ウァニュですか?」
「うん? そうだけど」
ウィルジウスは一人呟く。
「あの、ザック・ウァニュ……」
次回 上流社会




