第二話 仲直り
「ねぇねぇ、ハーティン、見た? アンノウンのフィクションタイム記事」
「そんなもの見てる暇なんてないの。いい? あなたたちはわたしの指示に従って、金曜のパーティーの準備を……」
「ミアウが戻ってきたんだって! 知らなかったでしょ!」
「え⁉ ミアウってあの?」
驚いて声を出しすぎてしまう。ハーティンはそんなことも気にせず、子分の一人、マーメイを揺らして問いただす。
「いつ⁉ ミアウはいつ帰ってくるの?」
もう一人の子分、リッチーナもマーメイと同じく小さい目を開けて驚いている。
「やっぱり、知らなかったんだ。アンノウンの記事は本当みたいだね」
「えっ? し、知ってたわよ? 驚いた振りしただけ。あなた達と同じ反応したの」
子分たちは眉を顰める。ハーティンはそんな自分の子分達を見ながらため息を吐く。
「もう! はやく! パーティーの準備しなさい!」
ミアウは馬車が止まると同時に起きた。窓から外を見てみると見覚えのある館が見える。ムーン家に着いたみたいだ。ドアのロックを外してトランクを置いて出る。
九月だがもう寒い。とくに耳が寒いのでピアスを外してさっきトランクから出したイヤーウォーマーを付ける。人間界は暑かったというのに。もう一つのトランクを預けていなかったらコートを着れたのに。
鼻水をすするミアウは大きいドアの横のチャイムに魔力を流して鳴らす。少しして扉が開いた。久しぶりの内開きの扉に驚く。
「お、お邪魔します」
入ってすぐ、二階の親友のハーティンの部屋に向かう。途中に置いてある家具や絵が変わっている。魔界を離れている間に時間が経った事を感じさせられる。ミアウの好きな絵もなくなっていた。
ハーティンの部屋の前に着くと壁に紙が貼ってあった。『用があるならタイプライターで』張り紙に首を傾げながらミアウはノックして扉を開ける。
「久しぶり、ハーティン」
中には親友のハーティンとマーメイナとチーナティーがいた。三人共目を見開いて口をパクパクしている。
「マーメイとチーナはハーティンの取り巻きに?」
何も考えず、部屋に入り、ハーティンを見つめる。ハーティン・ムーンは何も言わずに椅子から立ち上がってミアウを睨む。
「もともとあんたのものだったっけ? あと、外の紙は見た? メールしてよ」
「あぁ、書いてあったわ。ごめんね。でも、一年以上会えなくて寂しかったでしょ? わたしも早く会いたくて。持って行ったタイプライターは壊れちゃったの」
ミアウは苦笑いをしながら何故か床に沢山の紙が落ちていることに気付いた。
「ハーティン、なんでこんなに手紙が落ちてるの? いつから雑用係に?」
「雑用なんかじゃない。金曜日に恒例のムーンパーティーをするの。ママがまだリンカーン国にいるから、わたしが招待客を選ぶことになったの……あんた、ハサミ」
マーメイナからハサミをもらったハーティンは紙をチョキチョキ切っていく。ときどきミアウをすごい形相で睨みながら。
「なにをそんなに怒ってるの? わたしハーティンに悪いことした?」
「したわよ!」
感情的なハーティンにびっくりして、ミアウは手からピアスを落とす。ミアウがしゃがんで拾おうとしたらハーティンが近づいてくるのが横目で見えた。ピアスを拾うと同時に床から招待状も取る。
「あなたのパーティーにウィルタルト王子が? おねがい、ハーティン。嘘だと言って」
招待状をハーティンに突きつける。ハーティンは招待状を奪ってミアウの目の前に来る。ミアウはそんなハーティンを見てため息を吐く。
「何が目的? わたしの失態?」
「いい? ミアウ、このパーティーはあなたが帰ってくる前に企画されたの。だからあなたへの招待状もない。あなたのことは一切考えずに第一王子を招待したの。勘違いしないで」
ハーティンはにっこり笑いながら名前の書いていない招待状をミアウに渡す。
「はい、これ」
「……わたしに?」
ハーティンは頷き、ミアウに招待状を握らせる。ミアウは怪しく思って睨み返す。
「いいの?」
「どうせ行くつもりだったでしょ。おかえり」
ハーティンは意地悪な笑顔を作って手を広げる。ミアウはトランクを置いて床に注意しながら広げられた手の中に飛び込む。
「んー! ただいま! ハーティン」
『うそでしょ、仲直り? なんでこう思った通りに行かないかなぁ。でもみんな安心して。金曜日はムーンパーティー。ハーティン・ムーン家で。パーティーには修羅場がつきものだからね。王子様はどうするのかな? 金曜日がすっごい楽しみ。~fiction time~』
次回 第三話 帰りを待つ者