第二十八話 プリンセス達の魔法のキス 前
イェーニット学園の入学式は終わり、馬車を三つを分けてウァルティーニ邸に帰ってきたウァルティーニ御一行。
当主エリック・ウァルティーニの執務室にて。
「意味わからないんだけど。もう一回説明して、パパ」
ミアウ・ウァルティーニは頭を抑えながら父エリックを見る。
「何度言っても無駄じゃないか、エリック? エリックもミアウを同じ言葉を繰り返すだけだ」
執務室のソファーに腰掛けるシックが口を挟む。
エリックは机の上の羽ペンをシックに投げる。
「危ないじゃないか」
シックは首を傾げて羽ペンを避けた。
エリックは舌打ちをしてミアウに向き合った。
「ミアウ、もう一度言うね」
エリックは自分の隣に震えて立っている女の子の肩を掴む。
「彼女はシュウウィジ・ディー。入学式で代表挨拶をしていた子だ」
「覚えてるわ。派手に転んでパンツ見せながら頭を打った子ね」
ミアウはシックの隣に座りながら足を組む。
シックはミアウの太ももをさすりながら顔を赤くしたシュウを気持ち悪く見つめる。
「シュウは小さい頃から両親がいなくて、私の親戚の家で預かっていた。
私が一度だけ預かった時、シュウが私に魔力の塊をぶつけてきたんだ。それで魔力検査をしたら」
エリックは机の引き出しから一枚の紙を出す。
【魔力検査の結果 シュウウィジ・ディー】
魔力量 Aランク
魔力属性 光
紙にはそう書いてある。
「Aランク? 嘘だと言って」ミアウは目を見開く。
「すごいねえ、よかったねえ」シックは小馬鹿にする。
「検査結果を見てすぐに養子縁組をしたよ」
エリックの言葉にミアウの眉が動く。
「いつの話?」
「シュウが十二の時だ」
エリックが言い終わる前にミアウが席を立った。
「三年前じゃない! なんで今なの?
もっと早くわたしに教えてくれてもよかったんだじゃない!?
ねえ、パパ、聞いてるの?」
ミアウはエリックの目の前まで来た。
エリックもシュウも黙っている。
「ねえ、なんとか言ってよ」
ミアウは静かに言う。
「すまん。言えない」
エリックはミアウを見つめる。
「そう。いっつもそうじゃない。わたしには何も言わずに……」
ミアウはエリックを一瞥して執務室の扉に向かう。
「待て、ミアウ」
ドアノブにかけたミアウの手が止まる。
ミアウの手を掴んだのは意外にもシックがだった。
「もう納得したのか?」
ミアウはわかりきったことを聞くなと言うようにシックを睨む。
「私も君と同じ思いだよ。納得できない」
シックはミアウの耳元で言った。
ミアウはシックから一歩遠ざかる。
「じゃあなんで彼女にいい顔してたのよ。この屋敷に入ってくるときもエスコートして。彼女の前だと笑顔なのに、なんで今は怒ってるのよ」
シックは反論しようとミアウに近づく。
「ミアウ、悪いのはエリックじゃないか? 何もかも秘密にして。シュウの未来も奪った」
話を聞いていたエリックは眉を動かした。
「シック」ミアウは呟いた。「わたし誤解してたみたい。そうよね、悪いのはパパだわ」
「勘弁してくれ」エリックは青ざめる。
シュウは隣のエリックとドア前の二人を交互に見てあたふたする。
ミアウがシュウの前に来た。
「ウィジ、あなたもここで暮らすんでしょう? 部屋を案内するわ。来て」
ミアウの差し出した手をシュウが握る。
「待て」
エリックがシュウの袖を掴んで引き留めた。
「まだ話が終わっていない。あと部屋の準備も……」
「まだ? じゃあ準備ができるまで私の部屋に泊まらせてあげよう。ウィルジウスもシュウも両方面倒見てやるよ」
シックはニヤつきながら言う。
エリックはシックの胸ぐらを掴む。
「俺の娘に手を出すな」
シックはエリックを抱きしめるように背中を叩く。
「ミアウはもう手遅れだけどね」
シックがエリックに囁いた。
「は? どういうことだ! シック、説明しろ!」
エリックがシックを蹴飛ばす。
「パパ!」
「ウァルティーニ様!」
ミアウとシュウは突然の暴力に悲鳴をあげる。
「いったい」
シックは床から起き上がる。
ミアウが駆け寄りシックを立たせてあげた。
シックが起きるや否やエリックも駆け寄る。
「説明しろ! ミアウに手を出したのか!」
ミアウはエリックをシックから離す。
「二人とも、喧嘩はやめて」
「ミアウ、シックに襲われたことがあるか?」
ミアウは唐突な質問に一瞬固まったが、少しして答えた。
「襲われたことはないわ。襲ったことはあるけど」
ミアウは顔を赤くして答えた。
エリックは反対に青くなる。
「おいおいおいおいおいおいおい、嘘だろ?」
エリックはシックを見た。
「……」
シックも顔を赤くして頷いた。
「嘘だろお!? お前らそう言う仲だったのかよ!」
エリックは膝から崩れた。
次回 プリンセス達と魔法のキス 後




