第二十六話 ウァニュ家のシークレット
魔王の言葉が終わり、入学式は無事終わった。
だが、エリックの連れであるシックとウィルジウスがどこかに行ったきり帰ってこない。先に広場から出ようか迷っているところに髪を派手に盛った若そうに見える夫人に話しかけられた。
「エリック・ウァルティーニ様! もしやお隣の空いているお席はシック・ウァニュ様のお席で?」
「え? まあ、はい」
エリックとしては会ったことはなさそうだが、エリックの父の知り合いなのかもしれないので席を立つのも気が引ける。
「先ほどの魔王のスピーチお聞きになりました? 自分の息子たちについて何も話しませんでしたね。それよりあの仮面は何だと思います? 非常識ですわ」
なんと、彼女は反魔王派だった。エリックはすぐさまその場から離れようとするが、彼女の話がまだ続いている。こんなところで席を立てばどんな噂が立つことやら。まあ、ここに居続けるほうが変な噂が立ってしまう。
「失礼します。連れが来たので」
「えっ、ちょっとお待ち!」
エリックは留められる前に素早く席を立った。向かった先はトイレだ。
「あ、シックじゃないか。ウィルジウスも一緒か?」
「ん、エリック。一緒だよ」
トイレの入り口にシックが立っていた。人はそれほど多くない。きっとシックを見て逃げたのだろう。今も三人組が逃げた。
「ウィルジウス遅くないか? 本当にいるんだろうな」
「いるよー。なんでそんなピリピリしてんのさ」
シックはエリックを突く。エリックはシックを思い切り蹴った。
「うっ! なんで私に八つ当たりするほどピリピリしてんだよ!」
「魔王様のスピーチだよ」
「え」
エリックの言葉を聞くや否やシックは目を見開いた。よほど驚いているのか、表情筋が戻ったか。
「彼の挨拶に何か違和感があったのかい?」
「あるよ。たくさん」
エリックは愚痴を零すことにした。
「まず何故会議の話題をしないんだ。毎年してたろ? 不思議だ。あと自分の息子のことについてなにも話さないのはおかしい。もしかしたら今年入ってくるシヤ王子には次期魔王にしないおつもりなのか。それか次期魔王はタルト王子ときまっているから担ぎ上げられないよう、話題に出してないか。あとあの仮面は……」
「随分多いな」
シックは床に座っていた。汚いのでやめさせたいが、そんなことをいえる立場ではない。
「シックは聞いてなかっただろうが、あれは一種の嫌味だ」
「ふーん。そう聞こえたのか」
エリックはシックに舌打ちをしたところでウィルジウスが出てきた。
「あれ、エリック様も来たのですか? 入学式は終わりました?」
ウィルジウスはシックのポケットからハンカチを取り出して当然のように使う。
「あぁ。入学式は終わったよ」
「どうする? 帰る?」
ウィルジウスからハンカチを返してもらったシックはトイレから出る。二人もそれに続く。
「いや、ミアウと話がしたい。あいつはどこにいるのか……」
エリックは周囲を見渡す。
「あれ、あそこにいる子はシックの姪じゃないか」
「わあ、ほんとだー」
エリックに続きウィルジウスも遠くを見る。そこにはミニタイプライターをいじっているシュリーユ・ウァニュがいた。シックも見つけたのか、ため息をしながら彼女に近づく。
「久しぶり。元気だったかい? シュリーユ」
「シック! わたしは元気だよ!」
シュリーユとシックは再会のハグをする。ずいぶん仲がいいのか、その状態で話を続けているようだ。
エリックたちもシックの元へ行く。
「ぬわ! エリック・ウァルティーニ王だあ! 騎士様まで!」
シュリーユはエリックとウィルジウスにもハグをする。
ウィルジウスは戸惑っている。
「みんなわたしの入学式を見に来てくれたのですね! お目が高い!」
目をキラーンと光らせるシュリーユにエリックは眉を下げて首を振った。
「今日は娘を見に来たんだ。彼女も入学するんだ。シュウっていうんだけど」
「知ってまーす! シュウウィジディーですよね!」
「あ、ああ」
エリックが縦に首を振った瞬間シュリーユがシックに耳打ちした。
「この人たちの前でもお父さんのことを叔父さんと言った方がいい?」
「もちろん」
シックが返事をしてシュリーユは静かに「わかった」と言った。
次回 フランス流の結末 ~振られてなんぼ~




